自民党憲法改正案が通過した2025年の近未来 2.国旗
親子・孫も含めて4世代の同居。果たしてうまくいくかどうか不安だった。生活のためとはいえ、それぞれ育ってきた時代が違う。しかし幸いなことに、家族は何となく仲良く生活していくことができた。
南島は非常に人口が少なく、過疎化、高齢化がものすごいスピードで進んでいる。律子家族が移住してきた時、島には他に15世帯、そしてほとんど65歳以上だった。翔太が新しく通う学校は小学校、中学校合わせて全員で5人。そのため律子親子達の移住はそれなりに地元の人から歓迎された。
一緒に暮らすようになって、憲法好きの翔太は何故か92歳の千造と一番気が合った。
「ひいじいちゃん、今日は祭日だね。玄関に日の丸の旗を建てよう。憲法3条の2で、国民は国旗及び国歌を尊重にしなければならないんだよね」
「翔太は本当によくできたひ孫だね。ワシが子供の頃は祭日には必ず日の丸を出していた。それが最近の人間はやらなくなってしまった。まったく前の日本国憲法はひどいものだった。個人の権利ばかり主張して、天皇陛下と国家を敬う気持ちが欠けていた。それが翔太と新憲法は素晴らしい」
そんな翔太に対して、翔太の母の優香はやきもきしていた。
「翔太、そんなに憲法ばかり話していないで、ちゃんと英語の勉強はしたの? とにかく英語よ。英語をしっかり勉強しないと」
翔太の姿を見るたびに英語を勉強させようとしていた。律子にもこう言った。
「母さん、今じいちゃんや、ひいおじいちゃんの世話で家計が大変なのは分かるわ。でもどうしても翔太には英語を勉強させたいの。私がご飯を食べなくてもいいから、翔太のために英語の教材を買いたいの」
「今、家計が苦しくてとてもそんな余裕が無いんだけどね。でもそんなに言うのなら。その代り、お昼のお弁当はご飯と梅干だけで何とか乗り切ろう。でも、どうしてそんなに翔太に英語を習わせたいの? 」
「私が離婚した理由を知っているでしょ。ダンナが株で大損して借金を作った上、暴力よ。その元ダンナが、どうやら強盗で懲役15年になったみたいなの。私達は離婚して縁が切れたから関係ない。でも翔太とは親子、親子関係は切ることができないの。元ダンナが服役を終えて出所した時、翔太は22歳。今は憲法で家族は助け合わなければならないことになっているから。そうしたら翔太には、元ダンナを扶養しなければならなくなるわ。そうなった場合のために、何としても翔太を海外に留学させて海外で働かせるの。海外なら日本の憲法の力が届かないから」
翔太の大好きな憲法が、こんなところまで影響しているのか。
翔太が島の小学校から帰ってくると、手をつけていない弁当箱をそのまま返された。
「翔太、どうしたの。お弁当を食べなくて。お腹の具合が悪かったの」
「違うよ。ママ。このお弁当は食べられないよ。だってご飯の真ん中に梅干が入っていて、日の丸じゃないか。国民は国旗と国歌を尊重しなければならないから、国旗を食べる訳にはいかないよ」
やれやれ、憲法好きもここまできたか。
その翌日から、優香は翔太の弁当だけは弁当箱に入れず、梅干を入れたおむすびにして持たせることにした。
おむすびを握りながら優香が律子に言った。
「ねえ。もし別れたダンナが株で成功していたら、どうなっていたかしら。あの人、最初はすごく優しかったのよ。暴力をふるうようになったのは株で失敗して借金に追われるようになってからなの。株価さえ下がらなければ、今ごろ親子三人で仲良く暮らしていたかしら」
「そんなGPISの言い訳みたいなことを言っても仕方ないよ。私達はどんな状況になっても、その中で生きていかなくちゃ」
そういいながら、律子は自分の弁当箱には米でなく、ふかしたサツマイモを入れた。幸い素人の農業でも、サツマイモだけはうまく成長してくれた。これで家族が食べていかれるのだから、贅沢を言ってはいけない。あとはできるだけ節約して生活していこう。
優香は本日のブログとして祭日に国旗を玄関に立てている翔の写真を載せた。
新憲法三条 国旗は日章旗とし、国家は君が代とする。
2 日本国民は、国旗及び国家を尊重しなければならない。




