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憲法クン  作者: とみた伊那
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自民党憲法改正案が通過した2025年の近未来   その1.家族

自民党憲法改正案


http://constitution.jimin.jp/draft/


を素にして発想を膨らませてみました。


勿論内容は全てフィクションです。

これをきっかけとして、この憲法改正案を読んでいただきたいと思って書きました。

登場人物  (2025年現在の年齢)


*日野家

日野千造 92歳

日野司郎 75歳

日野ナツ 74歳

日野法男 55歳

日野律子 50歳

日野優香 29歳

日野翔太 7歳(憲法くん)


*本田家

本田ケン 35歳

本田メリー 33歳


*エチゴ商事

黒井部長(本田ケンの上司)


*総理官邸

カベ総理(内閣総理大臣)

ツガ官房長官(官房長官)




日野律子は長年住んでいた東京のマンションから沖縄の離島、南島に移住することにした。律子の夫の法男は定年まであと5年。夫が60歳になったら夫婦二人でのんびり過ごすつもりだった。それがいきなり大家族となってしまったからだ。

2025年、憲法改正して7年たった時である。7年前の2018年、憲法は自民党改正案の通りに国会承認され、日本は新しい憲法の国に変わった。


数日前、嫁に行った娘の優香がいきなり孫の翔太と共にやってきた。

「母さん、私離婚してきたの。一緒に住んでもいい? 本当は翔太を預けて働きたいけれど学童保育に入れなかったの。翔太を母さんにみてもらって私、仕事を探して働くわ」

「離婚したのは残念だね。でも決まったものは仕方ない。孫と一緒に暮らせるのは楽しみだわ。でも東京のこのマンション狭いし、あなたはちゃんと食べていかれるだけの仕事が見つかるのかしら」


律子は心配しながらも、とりあえず娘親子と同居して狭いながらも頑張ろうと思っていた。その時、夫の実家から電話がかかってきた。夫は沖縄の離島・南島の出身で、その両親、すなわち舅の司郎、姑のナツ、そして舅の父の千造。この三人はそこでサトウキビを育てていた。ナツからの電話の内容はこうだった。

「今まで夫婦二人でお祖父さんの世話をしながら細々とサトウキビを作って生活してきたの。でも私も主人も二人共、もう歳をとって農業が辛くなってきたから仕事を辞めたい。でも農業を辞めると生活に困るの」

律子は尋ねた。

「でもお母さん、サトウキビは数年前からほとんど自分の家で食べる分くらいしか作っていなかったんじゃないの? 」

「量が問題じゃないんだよ。もともとサトウキビはTPPで安い外国製品が入ってきてからほとんど売れなくなってしまったの。その分、国から補助金をもらって、その補助金でなんとか生活していたんだ。でもそれは農業をやっているから。少しでもサトウキビを作っていればいいのだけれど、それを辞めてしまうと補助金が止まってしまうの。お父さんはこの前転んだのをきっかけに寝たきりになって、世話が必要になってしまったし。それに92歳のお祖父さんの介護もあって手いっぱい。それに加えてとても畑はできないよ。今は身寄りがいる人は年金がもらえなくなったし。子供に迷惑はかけたくないけれど、何とか助けてもらえないかね」


さかのぼること5年前、2020年の東京オリンピックが終わった後、景気が悪くなり日本全体が不況になった。日本の経済はどんどん悪くなり、株価が暴落した。株価の暴落により資産の50パーセントを株で持っていたGPIFの資産が一気に減ってしまった。そして急速に進んだ高齢社会。働く若者の数が減り、年金を受け取る高齢者ばかりが増えてしまった。ついに日本の年金は破たん。今までどおりの年金は減らされ、年金支給額は国民一人当たり一か月一万円にまで下がってしまった。

「一か月一万円では生活できない。こうなったのも国の責任だ。何とかしてくれ」

国民の不満は爆発した。年金だけでは生活できなくて自殺したり、飢え死にしたりする高齢者が毎日のように出てきた。しかし年金の支給額を上げようにも財源が無い。国民の我慢が限界まで達した2025年、政府は次の政策を打ち出した。引用されたのが新憲法24条である。

『憲法24条により、家族がいる者、すなわち国民は年金の不足分は親、子、孫で同居して助け合わなければ憲法違反である』

裏で

「家族が自分の親の面倒をみるのは当たり前だ。これによって子供がいなくても良い、などとバカなことを言う国民も減って、子供もどんどん産むようになるだろう」

などと言う保守派の政治家もいた。

年金で生活できない者に対しては厳格な審査の末、生活保護が支払われることになっている。しかしそれは全く身寄りが無い人の場合であり、少しでも親子・親戚がいる場合は、その親戚が面倒をみることとして年金不足分の増額支給は無かった。


法男・律子夫婦にとっても例外では無い。律子の両親は早くに亡くなってしまったが、法男は両親とその父親3人がまだ健在である。3人は年金と農業の補助金だけで暮らしていたため、その不足分は律子夫婦が負担して両親と祖父を扶養する義務が生まれた。


娘と孫に加えて舅、姑の生活費、介護、そして孫はまだ小さいので育児もしなければならない。頭を抱えていると、娘の優香が言った。

「今までは歳をとったら年金がもらえて生活できていたのに、それを家族で何とかしろというのはおかしいわ。そんな憲法は変よ」

律子は現実的である。

「でも決まったものは仕方ない。文句を言ってもどうにもならないのだから。それより家族でどうやって生活していけばいいか、考えましょう」

優香も実家に出戻りの身分であるため、そう強いことは言えない。そして案外思い切りが良いほうである。

「こうなったら、こうしましょう。私達みんなで南島へ移住するの。母さんは介護と育児をしてちょうだい。そうしたら私が畑に出て働くわ。誰かが農業を継げば補助金ももらえるし。それで住むところもできるし、食べていくくらいは何とかなるでしょう」

「やったこともないのにいきなり農業をやって大丈夫なの。田舎暮らしも初めてだし」

「何とかなるでしょう。それに農業の他に、私がブログを書いて生活費の足しにする。アフォリエイトっていうの。ブログに広告を入れて、記事を見る人が多いとお金になるの。今までファッションや料理のことを書いて、月に数万円は稼いでいたの」

「でも南島でファッションや料理は無理でしょう」

「そうよね。じゃあ、子供の成長記録にしよう。でも普通の成長記録だけだと目立たないわね。何か特徴は・・・・」

優香は側で遊んでいる翔太をチラと見た。翔太はランドセルをいじりながらぶつぶつ言っている。

「日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって・・・・」

子供というものはある一つのものに夢中になると、大人顔負けの知識を持つことがある。翔太はちょうど憲法改正になった2018年に生まれた。そのためなのか、夢中になったものが自動車でも恐竜でもなく、すっかり憲法好きな子供になっていた。新憲法の条文を全て暗記していて、遊びながらそれを口ずさんでいた。

「そうだ。普通のブログを書いても誰も見ないから、翔太の好きな憲法と関連づけて書いてみよう。ブログのタイトルは 憲法クン がいいわ」


家族が南島へ移住する中で、律子の夫の法男は南島へ行くことはなかった。南島には仕事が無い。そして法男の収入が律子と新しく増えた家族、合計7人の家族を支えることになる。そのため一人東京に残って働き続けることにした。


週に2本のフェリーに乗り、律子、優子、翔太は南島に着いた。気持ちを切り替えた優香はこれから同居することになった祖父、祖母、曾祖父に挨拶した。

「お祖父さん、お祖母さん、これからはここで暮らします。私は農業をやったことが無いので、お米の作り方を教えてください」

「この島では米はできない。できるのはサトウキビだけだ。私達は何代もの間、サトウキビを作って生活してきたんだよ。でもTPPで外国からの安い砂糖が入って、サトウキビでは生活できない。今はほとんど作物を作らず、政府からの補助金で何とか暮らしているんだ。だからサトウキビ畑もすっかり荒れてしまって使い物になるかしら。それでもサツマイモくらいなら何とか育つだろう。サトウキビの他に植えてみるといい。私が教えてあげたいけれど、私は足腰が悪くて車いすでないと動けない。お父さんの司郎もじいさんの千造もほとんど寝たきりだしねえ」


東京に一人残った法男は言った。

「僕も故郷に帰りたかったな。定年になったら故郷で暮らすのが夢だった。でも南島には仕事が無い。これだけの人数を養うには、もう少し働かなければならない。今の会社で定年後も延長してもらって働かなきゃならないのか」


古民家風の南島の夫の実家で、翔太は新しい家が珍しくて走り回っている。そして走りながら好きな憲法について話していた。

「憲法24条家族は・・・」


律子は新しい家の勝手がわからず、急に3人の介護をすることになってあたふたしていた。

「これから新しい生活になるのか。貧しいのは仕方ない。家族は助け合うものだから。ただ夫の法男がいないのが寂しい。やっぱり家族は一緒に住みたいなぁ。贅沢かしら」


優香は新しいブログを立ち上げた。ブログのタイトルは「憲法クン」

そして南島に移住した家族の記念写真を載せた。写真の説明として

“都合により東京から移住して大家族で新しい生活を始めます。憲法に従った国民の生活です”

と書き、新憲法の条文を最後に付けた。


新憲法第二十四条 家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。

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