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彼女の消えた王城は、

作者: 十六夜龍玲

息抜き短編。

短い…


 とある春の日の事。

 隣国との戦争の終戦から4年、ようやく人々の生活がまた滞りなく進むようになってきた国・テール王国。

 その国の王妃が、失踪した。






 その日の前日、王妃は何事もなく朝を迎え、眠りについた。

 しかし、寝床を共にする王が朝目覚めた時には王妃の姿は無くベットの温もりも消えていた。

 王妃はテール国でも一二を争う魔術の使い手であった。

 王妃はあまり魔力が多くなかったため、魔力消費を代償に詠唱を使わず即座に放てる魔法はあまり得意としておらず、限りある魔力を魔法陣・詠唱などである程度補い術式を組み立てる魔術を得意としていた。

 しかし、それが仇となる。

 魔術のなかでも多く魔力を使ってしまう転移術。王妃は独自の術式を使い本来の7分の1程度の魔力量で転移術を使っていた。

 そんな王妃は、失踪の術として、当然転移術を使った。

 王妃独自の術式は他の者では追うことができなかった。

 その日の内に捜索が始められたものの、長い夜の内に魔力を回復しながら小刻みに転移を繰り返したと思われる王妃は、もう隣国、あるいはもっと先の国に居るだろう、というのが専門学者の意見であった。


 王妃の失踪はすぐに国民の知るところとなり、その事実に多くの人が悲しんだ。

 戦争の被害を色濃く受けた地域への訪問、孤児院の慰問・手伝い、趣向を凝らした王妃主催の舞踏会やお茶会…。貴族・一般国民問わず、誰もが彼女の失踪を悲しみ、帰還を願った。

 ある地域では教会に町民全員が押し掛け、大混乱になり、王妃を崇拝していたある貴族は臥せってしまった。

 また、王城内も大混乱で、王妃にずっと仕えていた侍女は真っ赤な目で職務に当たり、王妃がいつも感想を伝えていた料理人は包丁で指を切ってしまった。

 王妃が常日頃行っていた些細な事が無くなり、歯車が少しずつ、少しずつ狂っていく。


 そんな風に国が大騒ぎになっている時、一番冷静であったのは王妃の夫である王だった。

 しかし、王はその冷静の装いの裏に深い深い悲しみを抱いていた。

 何しろ、王妃が他国から嫁いで来る前は『氷王』と言われるほどの冷徹・無慈悲ぶりであったのに、王妃が来るや否やデレまくり、愛妻家へと変貌し、彼女を深く深く愛していたからだ。

 王は王妃が嫁いでくる以前のような冷徹・無慈悲の氷王となり、無表情を貫くようになった。

 それでも王妃のいない空きは埋められず、王妃を思い出す全てが無くなっていった。


 ___王妃が必ず午後のお茶を持ってきていた執務室が移された。


 ___王妃が産んだ王太子に王はあまり会わなくなった。


 ___王の寝室が移され、ベッドは撤去された。


 王は冷徹・無慈悲の仮面を被り、王妃の居た痕跡を消し続けた。

 まるで最初から王妃なんていなかったかのように。

 そうしないと、一番最初に心が壊れてしまうと王は悟っていた。

 ある人は、その王の態度に激怒し、


「王妃の帰りを待つ気はないのか!」


と憤怒した。

 しかし王はまたこれも悟っていた。


 きっと王妃は帰ってこない


と。

 王妃の魔術の才能はこの国では持て余してしまい、そのことに王妃はつまらなさを覚え、しかし諦めていた。

 でも何かをきっかけに、王妃は魔術の発展した国へ行こうと決心したのではないか。

 王妃をこよなく愛していた王は、全てを分かっていた。悟っていた。

 それでもやっぱり、悲しさや寂しさを覚える心は存在していた。


 一年、二年と日々が過ぎていく中、多くの人が王妃の無事を願う歌や詩を作った。

 王妃の居た幸せだった日常を劇にあらわした者もいた。

 それでも王妃は見つからなくて、6年の月日が経った。


 その年は、多くの区切りの年だった。特に、王にとって。

 幼い頃から仕えてくれていた近衛騎士の騎士団長が定年を迎えた。また、王の親の時代から乳母として勤めてきてくれた乳母が退職した。終戦から、10年が経った。王になってから、15年になった。

 終戦を祝うパレードは、今年もやっぱり味気なくて、王妃の趣向を凝らした楽しみがないと、心の底から楽しめないことを国民誰もが感じていた。

 王もまた、その一人だ。

 けれど、『王』としては、そろそろ潮時ではないかと彼は思っていた。

 パレードの最後に、王は静かに告げた。


「本日をもって、王妃の捜索を打ち切る。これにより、王妃は見つかったとしても一般国民とし、王家の姓は名乗った場合不敬罪とす。」


 静かに響いたその声に、多くのすすり泣きが帰ってきた。

 人々は自然に手を組み、王妃の…否、元王妃のことを思った。


幸せを与えてくれた元王妃には、幸せになってほしい。

誰かのため、ではなく自分のために残りの人生を使ってほしい___


と。






 その晩、王は一人晩酌をしていた。

 元王妃が居なくなってからは見慣れた光景であった。


「___余は、そなたを幸せにできただろうか。」


 満月を眺めながら、一人呟く。

 王は、元王妃に対して、それは深い愛を抱いていた。それこそ、すこし掛け違えれば病んでしまっていたほどに。

 元王妃はいつも笑顔で明るく、他人の事を一番に考えていた。

 健気に誰かのために行動し、成功すれば花のように笑い、失敗すれば悔やみ綺麗な透き通った涙をこぼす。

 自分の幸せよりも他人の幸せを望む彼女だからこそ、幸せにしたいと思った。多くの愛を与えたくなった。

 そんな彼女が今幸せを掴み取ったと考えるならば、王は元王妃の失踪について悔いはない。

 幸せに、きっと、できなかったから元王妃は失踪したのではないか。

 でも自分は、元王妃を幸せにするための精一杯を尽くした。

 ならば、十分ではないか。

 王の頬に、一筋の涙が零れる。

 透き通ったそれは、月の光に照らされて、神秘的に輝いた。

 いつか、落ち着いたら王位を息子に譲ろう。


「ただひたすらに、苦しいだけだ。」

ありがとうございました( *´艸`)

意味…分かりましたでしょうか;

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