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怪奇二 ドリームキャッスル(その四)


 元々の発端は、この「裏野ドリームランド」にあった。閉園する数年前に仲の良かった渋沢家と水沢家――といっても、水沢家は母親と子供一人だけ――が一緒だった。水沢家は三人兄弟。残り二人兄と弟は家に残り、父親は休日出勤だった。これが命運を分けることになる。


 次男の嗣巳(つぐみ)は良くも悪くも大人しかった。それゆえ、渋沢家の姉妹はよく懐いた。

 渋沢家と付き合いがあるというのを水沢家の父親がいい顔をしなかったらしい。母親は不思議そうな顔でそんな父親を宥めていたという。


 ドリームランドで二家が楽しみにしていたのは、ドリームキャッスル。宝さがしを行っており、子供三人に地図が渡された。

「つぐお兄ちゃん。あっち行こ!!」

「待って! 由衣ちゃん、美優ちゃん!!」

 綺麗なドレスを着つけてもらえる、それだけで二人は大はしゃぎだった。


 女児二人は競うように動き、嗣巳のいうことを聞かなかった。そして、渋沢家の夫婦はアクアツアーに出かけ、今いるのは水沢家の母親のみ。

 地図を渡されたときに言われていたはずの「保護者同伴」と「お父さんお母さんの傍を離れないように」というのは一切守られていなかった。それを園の職員はともかく、観客は見ていた。

「駄目だよ! 美優ちゃん、由衣ちゃん! そういうところに宝物はないって書かれているよ!」

 二人は「そこに入らないでください」というところにまで入り込んだ。それを水沢家の二人が必死に止めていた。

 二人がばらけたとき、事件は起きた。

 母親はより小さい美優を、嗣巳は由衣を追いかけた。


 そして、由衣は怪我をしたのだ。命に別状はなかったのものの、背中に大きな傷が。

 自分たちのことを棚に上げ、渋沢家の夫婦は水沢家をなじった。「責任を取れ」と言い放ち、賠償金を多額なまでに支払わせようとしたものの、実況見分で嗣巳たちに非がないとされた。その腹いせに水沢家を下僕のように扱い始めた。

 渋沢姉妹はそれが当たり前になり、「あんたのせいで怪我をした」と記憶を改ざんさせたのだ。

 様々な嫌がらせを受けた水沢家は家庭がめちゃくちゃになり、離婚。現在渋沢家の隣住んでいるのは三男のみ。母親は心を患い、入院中である。



 その話をいきなりし始めたことに、紗耶香は驚いた。

「つかさ、君も巻き込む予定だったんだけどね。美優のトモダチって聞いてたから」

 ミラーハウスの件といい、その中で話した内容といい、「友人」からは程遠いと判断され、事なきを得たようだ。

「心外です」

「うん。兄さんが調べてくれた時に最近越してきたばかりってしか聞かなかったし。それしか調べられなかったって言ってた」

 調査会社の人間か何かか。そう言いたくなるのを堪えつつ、紗耶香はでかいため息をついた。

「復讐は何も生みません、と止めたいところですが」

「ちょっ……一ツ谷さん! 助けてよ!!」

 お黙んなさいな。助けられるほど、紗耶香に力はない。

「ぶっちゃけ、手を汚して楽しいものですか?」

「え?」

「あの人たちを殺すってことは、あの人たち以下に成り下がるということです。それに堪えられますか?」

 その言葉に沈黙が降り立った。


「あはははは!! そういう止め方されると思わなかったよ! ねぇ、どういう育ち方してるの? ミラーハウスの中といいさ!

 ごめん、でもね止めれないんだ。嗣巳兄さんはね、その『鉄の処女』に挟まれて死んだんだから!!」

 悪戯で地下に迷い込み、「鉄の処女」を動かした。

 いきなり動いた拷問具から幼馴染を助けて、嗣巳は挟まれた。それをドリームランド側はなかったことにした。嗣巳の遺体は下半身が潰れていたという。

「あの時、あんたらの母親がうちの母さんを殺そうとしていたんだって? だからドリームランドの『裏』に依頼したって記録が残ってたよ。

 本来、鉄の処女に挟まれるのは母さんだったかもしれないんだね。ただの逆恨みでさ。父さんと結婚したのが許せない、それだけの理由だって?」


 そんなくだらないことで。それが紗耶香の感想だった。

「だからさ、今度は俺が利用したんだよ。兄ちゃんと、母さんの復讐のためにね」


 水沢が近づき、扉を動かし始めた。さび付かせた音をたて、扉についた針は、姉に向かう。

 あれを止めれるほど、紗耶香に力はない。だから、偽善かもしれないが、妹の方に動いた。


 そして、拘束具を外す。どん、すさまじい力で紗耶香を押しのけ、妹は逃げ出した。


 目の前で扉が閉まり、悲鳴ととともに、あちこちから血が溢れ出てきた。目をそらし、耳を塞ぐものの、こびりついて離れなかった。


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