怪奇二 ドリームキャッスル(その三)
あり得ない。閉園して十年は経つというのに、鍵はスムーズに開いた。それだけではない。一切埃はなく、建物が老朽化しているということもない。こまめにメンテナンスをしていなければあり得ない。
そのはずなのに、血の匂いが下からこみあげてくる。
「……」
吐きそうになるのを必死でこらえる紗耶香に、水沢は笑って話しかけてきた。
「ミラーハウスで冷静だったからさ、ここでもそうなのかと思ったけど、やっぱりきつい?」
「……そうですね」
きついというレベルは既に通り越した。逃げだしそうになるのを必死に堪えているだけ。
この血の匂いと大内の態度から、渋沢は暴力を受けている可能性がある。簡単な処置くらいしかできないが、ここを出て救急車を呼ぶくらいなら出来るはずだ。
「無理やり連れてこられて、ミラーハウスに押し込んだ相手を心配できるだなんて、君いいヒト過ぎない?」
「いいヒトなんて、生れてはじめて言われました! ありがとうございます」
「嫌味なんだけど」
「嫌味ですら言われたことなかったんで」
やっと軽口を叩けるようになったところで、独房のようなところにたどり着いた。
数部屋ある独房。それはどこも使われていた。
誰かしらがいる。ただのアトラクションにしても趣味が悪い。
そして、皆恨みつらみを吐き出していた。
「……」
ここだけは、噂は本当だったということか。
「いっつも俺に残業押し付けて! テメェは遊び行って!!」
「あたしを泥棒に仕立て上げて、あんたは高みの見物!」
数人、ニュースで見かけた人物がいた。大半が何かしらの事件に巻き込まれている。
「知り合いでもいた?」
その言葉に、弱弱しく首を振る。
「美優達がいるのは、ここみたいだ」
嬉しそうに水沢が呟いた。
「生易しいね。ギロチン台だなんて」
くつくつと水沢が笑う。
両手両足を縛られた渋沢姉妹は、妹がギロチン台に仰向けで寝かされ、姉は「鉄の処女」と思わしき拷問具にいれられていた。
「ちょっ……」
「あはははは! いいんじゃない? 由衣、似合ってるよ」
由衣、というのが姉の名前だとここで初めて知った。
「どういう意味よ!?」
「『自称』処女なお前にはお似合いだって言ってんだよ。お前のせいで何人の男に俺が殴られたと思ってんの?」
あんたが毎回、処女は俺に奪われたって相手に泣きつくせいでさ。そう吐き捨てる水沢の目には狂気だけが宿っていた。
「たっ……助けてよっ! 今までのことは水に流すから!」
「あのさぁ、『水に流す』っていうのは、許す側が言うことであってさ、お前が言うことじゃないんだよ。それに、『今までの』って言ってるあたりで、喉元過ぎれば全部また俺のせいにされんだよ。
お前らが自称『弱み』をちらつかせて来るのが頭に来るんだよ。毎回毎回、お前らの尻拭いさせられるわ、責任転嫁されて俺のせいにされるわ、俺の勉強やら遊びまで邪魔されるわ。何の怨みがあるわけ? 俺の方があるんだけどさ」
この成り行きを、紗耶香はじっと見ていることしかできなかった。一言も発せられず、助けることも出来ず。
ただ出来たのは、憎しみのこもった水沢と、ただひたすら怯える渋沢姉妹を交互に見ることだけだった。
拷問具から私が逃げたい
そしてこれ書いている時に悪魔のささやきが。紗耶香に「逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ」とつぶやかせるかどうかという……それホラーちゃう