始まりは唐突
女三人寄れば姦しい。昔の人はそう言ったとらしいが、本当だなぁと一ツ谷 紗耶香は思う。
期末考査が終わった今、夏休みにどこへ行くかという話で盛り上がっている。
「一ツ谷さんは、予定あるの?」
「……あるといえば、あるかなぁ」
親戚のところに行儀見習いに。夏の予定と言えばそれくらいだ。ついでに年上でありながら「可愛い」と思う彼女をもふる。そう決めている。
「えっとね、隣県に廃園になった遊園地があるの知ってる?」
ニヤニヤした顔で、その女子生徒は言う。紗耶香が知らないと思っているからだろう。実際知らないが。
何せ、櫻井市に越してきたのだって、四月からだ。その前までは隣県どころか、地方も違うところに住んでいた。それを知っているはずのこいつらは、どうしてこうも低レベルな嫌がらせをしてくるのか。
「溝内センセに聞いてないの?」
……オッサン人気あったんだっけ。遠縁の旦那という以外接点はない。どうやら良平の自宅へ紗耶香だけが招かれたのが、悔しいらしい。
「聞いてないよ。ってか、悠里さん遊園地苦手だからさ、あのヒトそういう情報仕入れてない」
「え゛!?」
「ラブ過ぎて、悠里さんを傷つける人には容赦しないよ。捕まると失職しちゃうから、その寸前で止めるけど」
どや顔で「悠里を養っていけなくなるくらいなら、止めはささん!」と言ってのけたらしい。四月に悠里を通して会ったばかりなので、そう言った話は紗耶香の母親伝手に聞いてはいた。……まさか予想をはるかに超えるなどとは思ってもみなかった。
「……そ、それはそうと……」
想像できなかった一人が、無理やり話をかえた。
「……『裏野ドリームランド』かぁ。また懐かしいものを」
「オッサン、知ってるの?」
とりあえずは情報収集を兼ねて、良平のいる科学準備室に行けば、茶を出しながら呟いた。
「あのねぇ、俺を何だと。それにディスのいる県だしね」
「マジで?」
悠里達との会話でも何度か出てくる「ディス」という人物。ゲームで顔を合わせただけで、直接面識がない。まさかの隣県だったとは。
「そそ。そこの噂なら、ディスに聞いた方がいい。……悠里には絶対に聞くな」
「悠里さんの遊園地嫌いに関すること?」
そう訊ねれば、良平は曖昧な顔をした。あとで悠里の母親、さゆりにでも聞いてみよう。
「ところで、一ツ谷さん」
「なんでしょうか、溝内先生」
「君のメアドと携帯番号、ディスに教えていい?」
「何で?」
「直接連絡とって欲しんだよ。そこの遊園地に関することは」
「りょーかい。クラスの連中が一泊で行くかって言ってるし、連絡先教えといて」
良平もだが、「ディス」と呼ばれる男もそういった情報をばらまく人物ではない。
さゆりに聞いたものの見事にはぐらかされ、孝道にもはぐらかされた。そして「悠里には絶対聞くな」。やはり「裏野ドリームランド」で悠里は何かあったらしい。
そのあたりも調べるべく、ディスに連絡をつける。
『はい、山田です』
「私、一ツ谷 紗耶香と申しますが、そちらは『ディス』さんでお間違いないでしょうか」
ゲーム内でのイメージとは違う、落ち着きすぎた声のため、紗耶香は焦った。
『間違いないです。どうすれば信用しますか?』
そのあと、何度かやり取りをして、本人確認を済ませ本題へと移った。
『とりあえず、閉園になったのは、十年くらい前だな。そのあと、建て壊されることはないままだ』
「危なくない?」
十年も経過しているとなれば、設備だって古くなっている可能性はある。
『しゃーない。取り壊すにも地主の許可が要るんだが……その地主が拒否している』
「えーー」
『噂は開園当時からあったんだよ。……できればお前さんにも首突っ込んで欲しくないんだが』
「ヤバめ?」
『まぁな。毎年夏休みになると、肝試し感覚でいろんなところからやじ馬が押し寄せてきやがる』
「それに参加するかも」
『ディッチに聞いた。だから、お前さんに情報公開しとくんだよ。あとでおおよその噂をメールしとく』
その情報を見た紗耶香は少しばかり呆れた。
「なんつうか、ありきたりなのが多い。それだけで噂になるもんかな」
どう調べても「事故」も「行方不明」も出てこない。
幽霊見たり枯れ尾花。その言葉を思い出しつつ、クラスメイトと裏野ドリームランドへ向かった。