その三 再会
……着地に失敗し、派手に素っ転んだ僕は、道路の真ん中で気絶していたらしい。
目が覚めたとき、僕の目の前に聳え立っていたものは、見るも無残な死体の山だった。
白黒のアスファルトが、染み出した生臭い液体によって赤黒く染まっている。
そんな中、およそ現実離れした地獄絵図の中央、死体の山の頂上に立つ、二つの人影に気付いた。
――――一人は、尾張支部の白衣を見に纏い、顔の半分が血塗れになった色白の男性。やはり血だらけの腕の中に、一人の女性を抱き寄せている。サングラスはもう見当たらない。
――――もう一人は、それを少し紅潮した面持ちで受け入れながら、静かに笑う、薄い黄色のワンピースを着た若い女性だ。澄んだ瞳で目の前の男性に熱い視線を投げかけている。
……そして二人とも、その双眸に涙を浮かべていた。
「――――慧利香」
「……はい」
呼ばれた女性が、必死に嗚咽をこらえながら、ゆっくりと顔を上げる。
「…………結婚しよう」
感極まり、次から次へと流れ落ちていく大粒の涙。噛み締めながら、慧利香さんは小さくうなずき返した。
「――――はい」
そうして二人は深く深く抱きしめ合い、数十秒ほどかけて、長い口付けを交わしたのだった。
「……起きたか」
「あ、はい」
声をかけられ振り返ると、苦々しい顔で立ち尽くす本道君がいた。
僕は、依然抱きしめあう二人から視線をはずし、ふと思い立った疑問を躊躇わずぶつけた。
「――――でも、どうしてあの人だけ助かったんでしょうね?」
「……まだ誰も、助かってなんかねぇよ」
「え? でも――――」
「――――もう、行こうぜ……」
どうしてか、本道君の声色は酷く弱々しく、悲壮に満ちていた。
不審に思い振り返った刹那、慧利香さんが、膝から崩れ落ちた。
「……颯太君」
踵を返し歩き出した僕の背を、か細い声が呼び止める。所長は、身じろぎもしない小柄な肩を、必死に抱きとめていた。
「――――今でも、帰りたいかい?」
僕は迷わず、コクリと頷いた。




