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怪物の通る歩道橋  作者: 羽川明
ニ十五章
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その三 再会

 ……着地に失敗し、派手に素っ転んだ僕は、道路の真ん中で気絶していたらしい。

 目が覚めたとき、僕の目の前に(そび)え立っていたものは、見るも無残な死体の山だった。

 白黒のアスファルトが、染み出した生臭い液体によって赤黒く染まっている。

 そんな中、およそ現実離れした地獄絵図の中央、死体の山の頂上に立つ、二つの人影に気付いた。

 ――――一人は、尾張支部の白衣を見に纏い、顔の半分が血塗(まみ)れになった色白の男性。やはり血だらけの腕の中に、一人の女性を抱き寄せている。サングラスはもう見当たらない。

 ――――もう一人は、それを少し紅潮(こうちょう)した面持ちで受け入れながら、静かに笑う、薄い黄色のワンピースを着た若い女性だ。澄んだ瞳で目の前の男性に熱い視線を投げかけている。

 ……そして二人とも、その双眸(そうぼう)に涙を浮かべていた。


「――――慧利香(えりか)

「……はい」

 呼ばれた女性が、必死に嗚咽(おえつ)をこらえながら、ゆっくりと顔を上げる。

「…………結婚しよう」

 感極(かんきわ)まり、次から次へと流れ落ちていく大粒の涙。噛み締めながら、慧利香さんは小さくうなずき返した。

「――――はい」

 そうして二人は深く深く抱きしめ合い、数十秒ほどかけて、長い口付けを交わしたのだった。


「……起きたか」

「あ、はい」

 声をかけられ振り返ると、苦々しい顔で立ち尽くす本道君がいた。

 僕は、依然抱きしめあう二人から視線をはずし、ふと思い立った疑問を躊躇(ためら)わずぶつけた。

「――――でも、どうしてあの人だけ助かったんでしょうね?」

「……まだ誰も、助かってなんかねぇよ」

「え? でも――――」

「――――もう、行こうぜ……」

 どうしてか、本道君の声色は酷く弱々しく、悲壮に満ちていた。

 不審に思い振り返った刹那、慧利香さんが、膝から崩れ落ちた。

「……颯太君」

 (きびす)を返し歩き出した僕の背を、か細い声が呼び止める。所長は、身じろぎもしない小柄な肩を、必死に抱きとめていた。

「――――今でも、帰りたいかい?」


 僕は迷わず、コクリと(うなず)いた。

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