表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪物の通る歩道橋  作者: 羽川明
二十三章
80/87

その二 VSハンハンド編2

 噴水広場の入り口の、金属製の柵に腰かけ、僕らは作戦会議を口実に、しばしの休憩をはさんでいた。とはいえ、周囲を埋め尽くすどす黒い黒腕が嫌でも目に入り、ほとんど口実になっていなかった。

 見渡す限りを取り囲む黒腕たちは、京子さんの言う通り一定の長さで伸び切ってしまうようで、ここまで届くことはなさそうだった。そのせいか、どうにも緊張感に欠ける。目前に広がるおどろおどろしい光景も、この街の危機も、いまいち現実味がない。いつもみたいにどうにかなるんじゃないか? なんて考える自分がいる。

 僕は、あれに呑み込まれることになる人数を、この場の誰よりも知っているはずなのに。

「――――まさか、車が通れねぇとはな」

 本道君が、俯いたまま呟く。

「……まぁ、よくよく考えてみたらここ、噴水広場ですからね」

「…………あぁ、まぁ、な。噴水のそばを車が横切ったら、風情(ふぜい)がねぇもんな」

 その声にはほとんど抑揚がなく、半ば上の空のようだった。無理もない、のだろう。多分。どちからが正しいのかは、何となく、分かる。……それがなぜかは、分からないけれど。

「でも、ホントに良かったんですか? 柴崎さんなしじゃ、僕たち――――」

「――――倒しゃいいんだよ、倒しゃ。でなきゃどのみち帰れない」

「まぁ、それはそうなんですけど……」

 噴水広場の入り口に柵があるのが見え、バンではこれ以上進めないと分かった時、メタルワープが使えない今、現状唯一の移動手段を危険に晒すわけにはいかず、柴崎さんには先に戻ってもらうことになった。今頃は、加奈子さん同様風間君の弾幕の中で待っていることだろう。

 僕たちの帰りを。そして、この災厄の、終結を。

「さすがの所長も、通れないとは思ってなかったんでしょうね」

 間を取り繕うように笑いかけると、なぜか不意に、本道君の横顔が強張った。そうして、真顔のまま呟く。

「……どうだろうな」

「え?」

 言葉とは裏腹に、それは確信に満ちていた。本道君は、眉根にしわを寄せ、苦々しい表情を浮かべている。

「………いや、何でもない。それより急ごうぜ。もう、時間が無い」


 その言葉はまるで、かつての坂本さんが乗り移ったかのようで。

 意識し出すと、胸中を輪郭のない息苦しさが渦巻いた。

『チャージ率、百パーセント』

 本道君が正面中央を(ふさ)ぐ黒壁にバズーカを構えると、そんな無愛想な返事が来る。事前にチャージしてあったようだ。

「……行くぞ?」

「はい」

 意気込むと自然、歯噛(はが)みする。左右の奥歯ががちがちと打ち震えているのに気付き、ほっと安堵する自分が居た。――――なんだ、緊張してるじゃないか。


 だから大丈夫。僕はまだ、大丈夫なはずだ。

 この震えが、単なる恐怖から来るものではない限り。


 ――――これから、ハンハンドに(とら)われた数百人の命を犠牲にすることになるのだ。

 だというのに、微塵(みじん)も緊張しないなんて。それじゃまるで――――


 ――――〝ヒトデナシ〟じゃないか。


           *


 立ち塞がる黒腕たちを叩き切る度、ぬるりと生々しい手ごたえが蛍光灯(驚くことに柴崎さんと同じものだ)越しに手のひらに伝わってきて、時折吐き気を(もよお)した。

 それでも、先陣を切る僕が立ち止まるわけにはいかない。すぐ後ろを走る本道君の腕の中では、身の丈ほどの巨大バズーカが構えられている。それが僕らの役割分担だった。

 この作戦は、どちらか一方が脱落した時点で破綻する。だから、この配置の立案者は、きっと誰も死なせる気が無いのだろう。

 黒腕を裂く重い手ごたえが半ばほどで途切れ、突き出した切っ先が虚空を両断した刹那、唐突に視界が開けた。

「――――っ!!」

 広がる異様な光景に、一瞬頭が真っ白になる。瞳が、凍てつくようにがくがくと揺れる。

 目に飛び込んできたのは、辺り一面を埋め尽くすように肥大した、脈打つどす黒い肉塊。

 そして、その中央に(たたず)む、――――一人の、白い人影だった。

「……なんで、こんなところにいるんすか? ――――所長」

 追いついて来た本道君が、呆然とした面持ちで呟く。

 所長はただ、目元を覆うサングラスの下で、裂けるように笑った。

 そうして、興奮冷めやらぬ荒い吐息で言葉を紡ぎ、勢い良く顔を上げる。


「――――待ちくたびれたよ、諸君。……さぁ、最終対決(ラストバトル)と行こう!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ