その一 支援システム
『クワァアアアァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!』
ぞくりとする一鳴きが、静寂を切り裂いた。見上げると、僕たちのいる鉄くず置き場周辺を囲むようにして張り巡らされた電線から、数羽の烏がこちらを見下ろしている。
『目無烏。危険度:二』
最早手慣れた動作で緑のボタンを押すと、ナビの平淡な声が流れた。
危険度二か。それなら確か、フラッシュで一掃できたはず――――
「……厄介だな」
「え? でも、フラッシュを使えば……」
しかし、現れた武器選択画面はレーザーマシンガンを推奨してくる。
「いいや、こいつらは耐久力が高いから、フラッシュは効かない。目が無いから、目眩ましにもならないだろう」
『――――よって、高火力の範囲攻撃、レーザーマシンガンを推奨いたします』
「レーザー、……マシンガン?」
『武器選択、レーザーマシンガン。敵に照準を合わせ、赤のボタンを長押しして下さい』
口に出して見ただけなのに、勝手に武器が変更され、内部で駆動音がした。それに合わせて保護メガネが小刻に振動し、鼻当てが目元をくすぐる。
「これって、普通のレーザービームを連射するのとは違うんですか?」
「……すぐにわかる」
生返事で返される。見ると、風間君は右手で黒いリング状の保護メガネを操作しながら左手を白衣の下から背中に回して何かを取り出そうとしていた。何やら忙しそうだ。
「武器選択、フィジィカリィー・レーザー。タイプ、HMG」
『了解。武器選択、フィジィカリィー・レーザー。タイプ:H M G』
月光を受けてメタリックな光沢を帯びたリングから、若い男性の機械的な声が流れる。ナビの音声は人それぞれのようだ。単に風間君のが特別製のなのかもしれないけど。
「ヘビーマシンガンってなんですか?」
「重機関銃のことだ」
重機関銃…… 頭の中で何度も反芻し、やっとのことでイメージを引っ張り出す。
――――よくアクション映画とかで悪役がヘリの上からぶっ放すあれか。でもあれは確か、一人で持ち運べるようなものではなかったはず……
『警告 武器支援システム、発動。頭上注意』
「え? うわっ!」
真横でびぃんと鋭いプロペラの音が鳴り渡り、何事かと飛び退くと、風間君が両手に二つずつ掲げた円形の金属板をフリスビーのように放り投げるところだった。それらは風間君の手を離れた途端空を斜めに切り裂いて飛行し、編隊を組んで僕らの周りをぐるぐると回り始めた。
「なんなんですか、あれ!」
「君のナビが言ったろ。武器支援システムだ」
「だから、なんなんですかそれ?」
「どんな状況にも対応できるよう、保護メガネには支援システムが備わってるんだ。君だって、さっきここに来るときにメタルワープシステムを使っていたじゃないか」
「めたるわーぷしすてむ?」
そう言えばナビが言ってたな。でもダメだ、さすがに頭が追いつかない。こうしている間にも、頭上の目無烏たちはしだいにその数を増して行っている。今は十二羽ほどだろうか。
「まさか知らずに使っていたのか? メタルワープシステムはかなりメジャーな奴じゃないか。研修中に教わらなかったか?」
ついさっき拾ったばかりなので。……とはこの状況ではとても言う気になれず、曖昧な笑みで誤魔化す。
『カァアアァァーーーーーーーーーーッ!!』
「来るぞっ!!」
『避けて下さい』
「え? うわっ!」
文字通り目と鼻の先まで迫っていた嘴の軌道が、急激に右に逸れる。直後に膝が締め付けられる感覚と共にガクンと体が制止して、後ろ髪と右脇の下を突風が掠めた。最後に視界を覆い尽くすほど大きな黒光りした塊が鼻筋を通過し、僕を嵐の如く取り囲んでいた羽音はぱったりと途絶えた。振り返ると、地面のあちこちが大きなスプーンで掬ったかのように抉れており、その終着点で数羽の目無烏たちが息絶えていた。捨て身の猛攻としか思えない。寒気が走り、背筋が震えた。