真相
――――固い鑢の上に投げ出されたかのような、電撃の如き衝撃が全身を駆け巡り、僕は途方もない倦怠感の中覚醒した。
固く閉ざされたまぶたをゆっくりと開くと、右目が何かどす黒いものに塞がれている。慌てて手をつき跳ね起きると、視界が一気に広がった。右目を覆っていた黒い物体は、ただのコンクリートだった。僕は、その上に膝をつきへたり込んでいたようだ。やはりというべきか、保護メガネは見当たらなかった。目の前の小規模な竹林が、微風に揺られてさわさわと音を立て、静寂を際立てている。見上げると、昼下がりの空には雲一つなく、この季節にしては太陽が眩しかった。
明らかに、時間が飛んでいる。見たところ、最低でも半日以上は経っているはずだった。
「――――なんでお前が、ここに!?」
その時、背後から声が聞こえた。ぶっきらぼうな口調とは裏腹に、男性にしては高い好印象な声色。振り返ると、そこに居たのは――――
「……本道、君?」
あの時代から何一つ変わっていない、明君の姿だった。
「どうして? なんで? ――――だって、ここは……」
――――〝現在〟のはずじゃないか。
「うっ……」
不意に、本道君が胸元をぐっと握りしめ、呻き出した。
「ほ、本道君!? ――――わっ!」
慌てて立ち上がり、駆け寄ろうとした刹那、すっと力が抜け、僕はバランスを崩して前のめりに倒れ込んでしまう。額を地面に打ち付けた瞬間、体中を鈍い電流が駆け巡った。じーんと滲むような痺れを伴いながら、身体の節々が小刻みに痙攣する。
「いっ、つ……」
口を開くと、舌までもが同じように痺れ始めた。目蓋は視界を半ばほど塞いだまま開かず、右の目元と頬の間で何かの細い筋肉がびくびくと震えている。それでも何とか立ち上がろうと地面に左手をつくと、左腕にびりりと鋭く電気が走り、半端な角度で曲がったまま硬直した肘が、がくがくと震え始めた。足の方は震えてこそいないが、まるで力が入らず、感覚もおぼろげだ。
「……はぁ、はぁ、はああぁ、あぁっ! あぁあああぁぁ、うぅっ、ああぁああぁぁ――――――――ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァーーーーーーーーーーーーーーァァッッ!!』
その間にも本道君の呻き声は激しさを増し、それは叫び声に、そして雄叫びに変わった。
「え?」
神経を逆撫でするような、酷く甲高い不快なしゃがれ声。それは、まさしく人ト非のそれと瓜二つだった。
「まさか、そん、なっ……」
痺れの残る舌に、渋みが広がった。顔を上げようにも、地面に手をつき項垂れるような姿勢のまま身動きが取れない。僕は本道君の荒い息遣いを聞きながら、ひたすら真っ黒に塗り潰された道路を見つめていることしかできなかった。
そのまま恐ろしく長い時間が過ぎ去った後、ようやく痺れが治まり、僕はついたままだった手に力を込めて、ゆっくりと立ち上がった。本道君は、道路の上に膝をつき両腕を力なく投げ出して、ぼんやりと空を見上げていた。未だ苦しそうに浅く短い呼吸を繰り返しているが、肌や髪の毛の色に変化は無く、いつもと変わりないように見えた。やがて、本道君の目線がゆっくり下りてきて、数秒後、視線が交錯した。
「――――っ!!」
束の間、息を呑む。一瞬、呼吸が止まったようにさえ思えた。
いつもと変わりない、人肌を携えた顔。ただ、その瞳には、どす黒いリングが浮かんでいた。
「それって、人ト非の!」
反射的に右手が上がり、右のフレームの赤いボタンを押そうとして、虚空を掠めた。
本道君は疲れたように短く溜め息をつき、眉間にしわを寄せると、いつも以上にぶっきらぼうな口調で言った。
「……それは、お互い様だろ?」
言いながら、本道君が顎で左上を指す。見るとそこには、カーブミラーがあった。根元からは雑草が生え、錆着いている。
意図が分からず、しばしぼんやりと見入っていると、不意に、ある違和感に気付いた。
道路にへたり込む僕を俯瞰するように映し出したカーブミラー。
その中に映る僕の瞳までもが、黒く塗り潰されていたのだ。
「――――なんだよ、……………なんなんだよこれっ!!」
叫び、見開くと、黒目を囲むようにして浮かぶ、どす黒いリングが見えた。




