鉄くず置き場周辺
ほどなくして視界が晴れると、そこは見知らぬ廃工場だった。鉄くずや、大きく変形した何かの部品、ガラクタなどが辺りに散乱している。場所が変わったせいか、空では先程は隠れていた満月がしっかりと出ていた。
「良かった、ちゃんと招集されたみたいね」
聞き覚えのある声に振り向くと、上杉さんが居た。両脇には、並ぶようにして立つ男が二人。年齢は、同い年か、僕より少し高いくらいだろう。どちらも上杉さんと同じ白衣に身を包んでいて、一人は寝癖の目立つ無造作な黒髪、もう一人は、保護メガネではなく、横一文字に赤い線が走った黒いリング状のものを頭からかぶっている。生真面目そうな外見ともマッチしていて恰好良いけど、ちゃんと前は見えてるんだろうか。
「あの、ここは……?」
「見りゃわかんだろ? 廃工場だ」
上杉さんの右に立つ、ぼさぼさな髪の男が答える。目つきが悪く、気だるげな背中は酷い猫背だ。
「……それより、自己紹介がまだだったな。俺は本道明。特技は近接戦闘だ。皆からは本気って呼ばれてる。お前も好きに呼んでくれ」
ところが、その声は見た目と裏腹に高く、予想外に親しみやすい声色で、第一印象は脆く崩れ去った。本道君は上杉さんの隣に親指を立てて示し、さらに続ける。
「こっちは風間――――」
言いかけて、本道君の声が唐突に途切れた。
『百五十メートル南西にて破壊衝動検知。ステージ1、推定危険度:四』
黄色と黒の斜線をバックに〝WARING!!〟という真っ赤な太字で画面が覆い尽くされ、ナビゲーターが少し強張った声で警告する。警告文が取り払われると、三人からは笑みが消え、緊迫した顔つきになっていた。今の警告は全員の保護メガネに流れていたようだ。
「続きは今度にしよう。俺達は工場の中を見て来る。お前は風間とここに残って援護してくれ」
本道君は一度全員の顔を見回すと、すぐに加奈子さんと連れたって工場の中へ駆け込んで行った。