その一 茶髪の少女
それは、薫の髪がまだ、栗色だった頃。
昔から奇妙なものが見えた薫は、学校でも孤立していた。中学にもなると、いじめを恐れてしだいに人目を避けるようになり、最近では同級生の姿がまばらになってから帰るようになった。だからその日、薄暗い夜道を一人で歩いていたのは偶然ではないし、陸橋の下の、長い長い通路の中で、その少女に出会ったのも、何一つ、不思議な話ではなかった。
「――――よぉ、クラス一位の優等生さんが、こんな遅くに何してんだ?」
背後から急に声をかけられ、薫は心臓が止まる心地で振り返った。そこには、むき出しの壁に寄りかかる、一人の少女が居た。頭上で明滅する蛍光灯が、少女の長い金髪と、左の前髪に結われた、緑とピンク色のメッシュをフラッシュの如く瞬かせている。
言葉に詰まり、視線を泳がせていると、少女はニヤリと笑った。
「ひっ」
気分を害している風ではない。どころか、その笑みには時折話しかけてくるクラスメイトから感じる悪意やぎこちなさなど微塵もなく、ただ純粋に、笑っているように見えた。
――――こんなにも恐ろしい夜の街を、この金髪の少女は楽しんでいる。
薫にはそれが不思議でならず、だからこそ、彼女が恐ろしく思えた。
「夜遊びなら、あたしが付き合ってやろうか?」
しかし同時に、彼女と共にこの夜の街を巡れば、暗闇や孤独への耐え難い恐怖を和らげられるかもしれないとおぼろげに思う楽観的な自分が居ることも事実だった。だから薫は、こくりと、小さく頷き返した。すると、
「ふふっ、……おもしれぇ」
金髪の不良少女は、悪戯っぽく笑った。
それから二人は、毎晩のように陸橋の下で待ち合わせ、ネオンが輝く深夜の街を、夜明けまで回った。薫は夜更けを過ぎた早朝にひっそりと帰宅し、新聞を取りに目覚めた母と鉢合わせてはこっぴどく叱られたが、夜に少女と会う度、それは些細な笑い話となった。
そんなある日のことだった。いつものように陸橋の下で待ち合わせ、これから、夜の街を巡ろうという時――――薫は、怪物に出会った。
そして、知らぬ間に暗闇への恐怖を克服していた薫は――――
――――はっきりと、その目で見てしまった。その、おどろおどろしい姿を。今まで黒っぽい霧か煙、或いは塊のように見えていたそれは、直視した途端輪郭を鮮明なものに変え、明滅する蛍光灯の下で、薫の前にだけ顕現した。




