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怪物の通る歩道橋  作者: 羽川明
十九章
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その三 学校編・北館三階廊下付近

「――――全力全開っ!! やっちゃって下さい!!」

 北館三階の廊下に、三度目の轟音が響き渡る。この角の向こうで、薫さんがバズ一号改良型、〝バズー改〟をぶっ(ぱな)しているからだ。おかげで、僕らの出番はあまりない。先程から教室やトイレなどに逃れた怪物たちを淡々と処理していくだけに終わっている。これが映画か何かだったら、間違いなくダイジェストでお送りされることだろう。そして、薫さんだけが映える位置にスポットライトが当たり……

 轟音が収まると、角の向こうからモーターの駆動音が聞こえて来た。足音とは似ても似つかないけれど、この薄闇の中では十分ホラーだ。

「ひぇぇ…… キミくんキミくん、向こうからなんか来るんだけど! きゃあ怖い」

 戻って来た薫さんが、十数分前と同じような台詞を口走りながら駆け寄って来る。 

 ――――ひょっとして鳥頭なんだろうか、この人。

 ほどなくして駆動音が止むと、今度は冷たい硬質な靴音がゆっくりとこちらに近付いて来た。曲がり角から廊下に出ると、薄闇の向こうに長身痩躯の白い人影が見えた。

「……あのさ、キミくん」

「何ですか?」

「わたしあの人、ちょっと苦手なんだヨネ」

「はぁ。……僕もです」

 人影は、先に来させたロボットの前で足を止めた。

「――――もうこの階に怪物はいないようだ。当てが外れたな」

「……はい、そうみたいですね」

 坂本さんがロボットの頭をわしづかみにして持ち上げると、ロボットは途端にがしゃがしゃと駆動して自分の体を折り畳んでいき、最終的に一枚の板になった。大きさは、パソコンのキーボードを二つ横に並べてくっつけたくらいだろうか。とはいえ、元々の背丈が五十センチくらいなので、オーバーテクノロジーというほどでもないだろう。

「そのロボットって……」

「戦闘支援システムだ。知らないのか? お前のなら使えるはずだろ」

「どうしてそれを?」

「このナビは、XA-2400系以降にしかいない」

 言いながら、坂本さんは指先でかつかつと自分の保護メガネのフレームを軽くつついた。すると、保護メガネが呼応するようにうっすらと青白く光った。

『ご用でしょうか、マスター』

「やっぱり、同じだ」

「識別コード:製造番号」

 坂本さんが、なぜかこちらを見据えながら言う。

『識別コード承認。XA-2423』

 あろうことか、坂本さんの返答に答えたのは僕のナビだった。

「なるほどな」

「え? おい……」

『なんでしょう、マスター』

「何勝手に喋ってるんだよ」

『識別コードを提示されたからです』

「は?」

『これにはマスター以外の人物であっても返答が義務付けられております』

「聞いてないぞそんなの」

『聞かれませんでしたので』

「いや、そりゃそうだけどさ……」

「不満なのか?」

 坂本さんが、凍りつくような冷たい視線でぽつりと言った。その表情からは何の感情も読み取れない。しかし、無表情ではないことは確かだ。

「あ、いえ、別に……」

「お前もやってみろ」

「え? じ、じゃあ、し、識別コード:製造番号?」

『識別コード承認。XA-2423』

「お前じゃないよ」

「ちゃんと俺の目を見て言え。よそみしてるからそうなるんだ」

「は、はい。……分かりました」

 ……この人の目を見るのは、正直に入って抵抗がある。振り返ると、階段のある曲がり角の向こうから薫さんがひょっこり顔を出し、心配そうにこちらを見つめていた。なんとなく、居心地が悪い。仕方なく視線を戻し、坂本さんの、今度はその細眼鏡の奥の、冷たい瞳をしっかりと見据えた。――――眼鏡の上から保護メガネをしているのは、きっとこの人くらいのものだろう。

「識別コード:製造番号」

『識別コード承認。XA-2506』

 確かナビ(コイツ)は、現存する最新型はXA-2400系だと言っていた。そうなると、XA-2506というのは、なるほど確かに、存在しない型なのかもしれない。

「なぁ、もしかしてお前は――――」

 坂本さんが、何かに溜まりかねたように、ゆっくりと口を開いた。その時、

 ――――ガラスが一斉に砕け散るような、耳障りな音が響き渡った。

「な、何ィ!?」

「上だ」

 取り乱す薫さんをよそに、坂本さんがあくまで冷静に言い、上を見上げた。視線の先には、暗くなってきたために電源が入り、うっすらと明滅する蛍光灯。


 その向こうにあるのは、――――四階だ。

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