その三 出動
午後夜九時、五分前。まだ早いかとは思いながらも転送室に向かうと、今回の作戦に参加するメンバー全員が既に集結していて、もっと早くこれば良かったと後悔した。
「――――ん? 右の頬が赤くなってないか?」
早々、あっけなく風間君に看破される。
「……いや、気のせい、じゃないですかね」
よりにもよって風間君に見抜かれるなんて、今僕の顔は一体どんな有様になっているんだろう。横目でちらりと窺うと、やはりこの前と同じあの目元を覆う黒いリング状の保護メガネを装着している。……あのレンズ越しですらわかるのか。
ふと顔を上げると、こちらに気づいた薫さんがなぜか押し殺した声でけらけらと笑い出した。腹まで抱えて笑い転げている。……殴りたい。
「……二分前か。――――では改めて、本日の作戦内容を説明する。変更点があったので、しっかりと耳を傾けておくように」
書類に目を落とし、所長は一度深く息を吸い込んだ。
「既に一部メンバーには伝えたと思うが、作戦内容が『雑魚敵の掃討及び危険度五の討伐』に変更されたため、当初の計画自体が大きく見直されることになった。今日の午後九時から十二時までと、明日の早朝四時からの、一日目と二日目に二分化され、一日目では雑魚敵の掃討を主とし、危険度五についてはその所在及び種類を確認、可能な限り討伐する。そして二日目にて雑魚敵の残党を全て駆除した後、全員で危険度五の討伐にかかる。……という手筈だ。
が、今回は凜土師君がいる。彼女が開発したバズーカの二号機――――」
「――――〝バズー改〟ですっ!」
バズ二号じゃないのかよ。所長は大きく咳払いをして話を戻す。
「……僕は、それさえあれば、或いは危険度五を交戦することなく討伐できるんじゃないかと考えている。本部の意見も同じだ。仮に失敗したとしても、雑魚敵の一掃には大いに期待できる。今回、この作戦に非・戦闘員である彼女が加わっているのはそういうわけだ。そこで凜土師君には、危険度五が居ると思われる、三階をあたってほしい」
「へ……?」
先程まで誇らしげに鼻息を荒げていた薫さんが、石像のように固まった。
「もちろん、単独でではないよ? 本部の人と、それから――――」
所長が視線を巡らせると、一同、一斉に顔を伏せる。全員、首が根元からほぼ直角に折れ曲がっていた。
「ちょっとぉ!? ねぇーえっ!」
薫さんが泣きそうな声で何やら不平を漏らしているが、知ったことではない。いい気味だ。
「――――それじゃあ、君に行ってもらおうかな」
「え?」
後頭部を所長の声がすり抜ける。恐ろしいことに、振り返っても誰もいなかった。
「……僕、ですか?」
「そうだ。不満かい?」
周囲及び所長からの視線が、拒否権を与えてくれなかった。
「い、いえ……」
「じゃあ、決まりだね」
所長は、打って変って涼しい顔で笑った。




