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怪物の通る歩道橋  作者: 羽川明
一章
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その一 メタルワープ

 パイプの側面に猛烈な風が吹き付け、両肩が淵に触れるか触れないかほどの狭い空間は微かに震えている。同時に上下左右、全方向から不意に来る、宙に身を投げ出したかのような浮遊感。ぐらぐら揺れる頭の中に、鋼鉄さえ打ち震わせる暴風の音が、右耳から左耳へと横殴りに通り抜けて行く。しかし、足元を覆う灰色のパネルはそこだけ微動だにせず、まるで迫り来る衝撃の全てを打ち消しているかのようだ。いや、実際そうなのかもしれない。この何の変哲もない保護メガネですらビームを放ち、五体の全てを好き勝手操ってしまえるのだ。こんな巨大なパイプなら、物理法則の一つや二つ、無視できない方が不自然だろう。流れ的に。

 突然がちゃんと大きな音が立ち、足元が少し揺れた。

「あれ?」

 気がつくとスニーカー越しに、踏み慣れた硬い感触がある。

「これは、……コンクリート?」

 向き直ると、周囲の鋼鉄の壁が掴まれたみたいに頭上に持ち上がり、さっと視界が開ける。そこは深夜の街中だった。人気がまるでなく、道路の両脇に並ぶ店はほとんどが閉まっていた。僕は、正面に(そび)え立つ青い歩道橋を前に、中央分離帯の上で一人ぽつりと立ち尽くしていた。

「……あれ?」

 数分前と、さして変わらぬ光景に、僕は目を(しばたた)かせ、辺りの様子を窺った。街が、革新的な近未来デザインに様変わりしているかと言えば、別にそんなことはなく、本屋さんが掲げる雑誌や映画の広告が、時代遅れ、はたまた白黒かといえば、やっぱりそんなことはない。ただ、いつの間に夜になったのか、道路に沿って等間隔に設置された街灯が爛々と輝いている。

『避けて下さい』

「え? 痛っ!」

 突然仰け反った背中に反応できるはずもなく、僕は背後にあったものに後頭部を強打した。とっくに黒腕が現れていてもいいころなのに、今回は何も起こらない。

『対象の消滅を確認。攻撃が中断されました』

「避けた意味ないじゃん」

 痛む後頭部を押さえつつ振り返ると、ぶつけたものが電柱だと分かる。

「あれ、こんなところに電柱なんてあったっけ?」

『破壊対象の出現により、招集されたようです』

「え? あぁ、そうなんだ……」

 あの人型の怪物のことだろうけど、さっきは僕じゃ敵わないから逃げたんじゃなかったか?

『前方に敵一体の生命反応を確認』

 慌てて身構えると、歩道橋の上に赤い閃光が迸った。見るとそこに、白っぽい人影がある。

「誰かが戦ってるんだ!」

 夜の帳にちりちりと舞う火花が、その人影の、苦渋に満ちた顔を照らす。僕と同い年か、少し下くらいの少女だ。きっと見据えた視線の先に、側面から生やした四本の触手をゆらゆら(なび)かせ浮遊する黒い塊がいる。さっきの手々悪魔とかいうやつだろう。張り裂けた口元に並ぶ、猫とは似ても似つかない白いギザギザの歯が、ここからでも見える気がした。夜だからか、両の双眸が血のように赤く光っている。

『ィヒヒヒヒッ……!』

 微かに不気味な笑い声が響き、両側から伸びた四本の黒い腕が風を切り裂いて、女の子に容赦なく襲い掛かった。いくら体が勝手に避けてくれるとは言え、無事では済まないだろう。手摺に頭を打ち付け脳震盪(のうしんとう)を起こしてしまうかもしれない。

「……ェンジャー、青」

 低い声色でぼそりと何かを呟くと、両目から呼応するように青い光が(ほとばし)り、女の子は目にも止まらぬ速さで上体を弓のようにしならせ迫り来る黒い四本の腕を一歩も動かずに全て(かわ)し、ぎりぎりまで接近した手々悪魔の体にレーザービームを打ち込んだ。

『敵一体の消滅を確認。破壊対象、消失』

 状況がまるで分からない。あの人ト非は、いつの間に倒されたんだろう。

 確かに、僕なんかよりあの子は相当に強いんだろう。でもあの人ト非は、明らかに別格だった。ど素人の僕がそう断言できるほどに。あれほどの強敵を、果たしてあんな短時間で、それもたった一人で倒せるものなんだろうか?

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