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怪物の通る歩道橋  作者: 羽川明
閑話2
48/87

その四 指輪

「そういえば所長って、奥さんがいるんでしたよね?」

 風間隼人の一言に、京子の耳がぴくりと反応したが、柴崎はまた見ないふりをして、

「あぁ、らしいな」

 と何の気なしに答えた。

「でも俺、所長が指輪してるとこ一回も見たことないんですよ。やっぱり、勤務中は外すものなんですか?」

「いや、そんなことはないだろ。監視室の山村さんだって、指輪はめてるんだし」

「じゃあ、なぜ?」

 隣で京子がごくりと固唾を呑んで睨みつけて来る中、柴崎はわざと普段通りの口調で言った。

「俺も詳しい経緯は知らないんだが、所長の奥さんは、もう随分前に亡くなってるんだそうだ」

「え?」

 漏れ出た吐息は、京子のものだった。柴崎はそれこそ我を忘れて喜ぶかとばかり思っていたが、その声色は、喜びとは酷くかけ離れたものだった。

 横目で盗み見ると、京子の瞳には、涙が浮かんでいた。


 それは、今にもこぼれてしまいそうなほど、大きく(ふく)らんでいた。


           *


「――――怪物は紫外線に弱いから、紫外線と同じ色をしているの。でも、それだけじゃ防ぎ切れないから、他の動物に寄生してカバーするの。でもその表皮が紫外線を通しちゃったら意味が無いから、宿主の肌もやっぱり紫外線と同じ色にするの。自分の色素を使ってね。だから肉眼では見えないわけ。まぁ、たまに見えちゃう人もいるみたいだけど……」

 加奈子さんが不意に薫さんの方をちらりと見やった。寝息どころかいびきをかきはじめたことにご立腹(りっぷく)らしい。そりゃそうか。

「でも、それもそれこそ数万人に一人居るか居ないかぐらいだから、当てにはできない。そこで、このSTK特製対怪物用接眼レンズの出番なわけ。……でも怪物は、〝視える人〟しか襲わないみたいだから、本当はずっと掛けてるのは危険らしいの。でも、かといって私たちが下手にこれをはずしちゃうと……、だから――――」

 ……やばい。薫さんのいびきを聞いていたら、僕まで眠くなってきた。でもさすがに、僕が寝るのはまずい。まず間違いなく()(ぱた)かれる。それに、加奈子さんは僕のために教えてくれているんだ――――


「――――ちょっと、……ねぇ、ねえってば。聞いてるの? …………怒るわよ?」

「うあ?」

 肩を激しく揺さぶられているのに気付き、顔を上げると、加奈子さんは目尻にしわを寄せ、ものすごく不機嫌そうにしている。

 怒鳴られると思ったその刹那、扉が少々荒っぽい動作でノックされ、返事を待たずに勝手に開いた。現れたのは、京子さんだった。心なしか、目尻が少し赤らんでいる。

「――――所長がお呼びです。ただちに第一作戦会議室に集まって下さい」

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