その三 作戦会議室
「――――さて、何から話そっか」
薫さんがカップの容器を捨てに行ったのを見届けると、加奈子さんが前にあるホワイトボードの横に立ち、黒のマーカーをひょいと手に取った。僕と戻って来た薫さんは左右にそれぞれ五列ほど立ち並ぶ白い長机の二列目に居る。こうしてみると、会議室というより小規模な試験会場と言った趣だ。
「と、言いますと?」
「いや、ね。……あなたって、新人とはいえびっくりするくらい何も知らないじゃない?」
……何と言うか、ばっさりだな。ようやく僕にも本道君の言うツンデレが垣間見えた気がした。
「――――だから、この際一から教えてあげようかって、さっき二人で話してたの」
「それで、作戦会議室なんですか?」
「そういうこと」
横目で様子を窺うと、薫さんはまぶたが半開きで、なんだか眠そうだった。左の前髪に黄緑とピンク色のメッシュを入れた金髪の頭が、うとうとと上下に揺れている。
「うおっほん。……じゃあまぁとりあえず、危険度について説明しようかな」
気を取り直すように大きく咳払いをすると、加奈子さんはホワイトボードに1から8までの数字を順番に書き込んでいった。
「危険度がその怪物の強さを表してるってことは、さすがに分かるよね?」
「……は、はい」
「じゃあ、危険度がいくつまであるか、知ってる?」
「えぇっと、八まで、……ですか?」
罠かも知れなかったが、とりあえずそう答える。
「ピンポーン。危険度は、一から八まで、全部で八段階あるの。じゃあ、そのうち実際に確認されてる危険度はいくつだと思う?」
「えぇっと、四まで、ですかね?」
加奈子さんが困ったような顔になる。正解ではないらしい。
「じゃあ、……六?」
「うーん、惜しい。正解は、六つ。六までじゃなくて、六個」
「え、どういうことですか?」
「現時点で確認されてる危険度は一、二、三、四、五、そして八。――――この六つだけなの」
「でも、そういうのって普通、番号順につけるんじゃ――――」
その先を遮り、加奈子さんが、どこか辛そうな口調で言った。
「――――強すぎるのよ。この、危険度八の怪物が」
さっと数字を消して、今度は文字を書き込む。それは、たった五文字のカタカナだった。
「……〝ハンハンド〟?」
「そう。それが、……その怪物の名前。危険度八に指定されてるのは、今のところこの一体だけ。でも、コイツは恐ろしく強くて、ろくなデータも取れてないらしいの。だから……」
そこで一旦言葉を切って、加奈子さんは大きく息を吸い込んだ。
「最強にして、災厄の怪物。そう呼ばれてるらしいわ」
「災厄?」
「私も詳しくは知らないんだけど、ハンハンドが現れた街は、一晩のうちに呑み込まれてしまうそうよ」
「そんな……」
「だから、〝死無生魔物神伝説〟に出てくる、終わりの神〝イブ〟の化身だって言われてる。まぁ、さすがにそれは無いと思うけどね」
「はぁ」
聞き覚えのない単語だらけだったので、ひとまず生返事で返す。
その後しばらく、STKや怪物についての説明あれこれは続いた。




