その四 廃工場内部4
『%■&?△&%☆&!#&#“&)◇ァァ!!』
悲鳴のような奇声を上げ、怪物は斜め後方の鉄柱に縋るように飛びつくと、不釣り合いに長い手足で素早くよじ登っていった。
『猿手足、危険度:四』
「猿手足か!!」
「急ぎましょう!」
加賀山さんがよく通る声を張って走り出し、資料や機材で足場の悪くなった道を先導する。僕ら三人がその後に続き駆け出したのを見届けると、柴崎さんが蛍光灯の出力を上げてから少し遅れて最後尾についた。
「加賀山さん」
走りながら呼び掛ける。
「何!?」
「さっきのって、加賀山さんですよね? あれって――――」
「あぁ、わたしのは第二世代だからね。レーザーじゃなくて、発光弾なの。古いけど、あなた達のより威力が高いのよ? かさばるは散らかるわ日焼けするわで全然良いことないけどね」
「僕らのってそんなに新しいんですか?」
「あなたのはどうか分からないけど、本道君たちが使ってるのは第三世代だから、確かまだ導入されて二年も経ってないはずよ?」
「じゃあ、柴崎さんのは?」
「……あぁ、あれは論外。怪物が発見された当初からある初期装備で、威力も放射できる紫外線濃度もずば抜けてるけど、それはただ単に安全面が考慮されてないだけ。あの光に長時間さらされてたら日焼けじゃ済まないわ。失明したっておかしくないような代物なのよ? ホント、何が悲しくてわざわざあんな危険なのを使ってるのかしらね」
「……詳しいんですね」
「えっ、そ、そぉ? ――――まぁ一応、あなた達よりはベテランだから。あはははは……」
ひょっとして何か地雷を踏んでしまったんだろうか。加賀山さんの笑みが引き攣っている。
「ん? あれ、階段か?」
最後尾を走る柴崎さんが、左前方を指した。見ると確かに、正方形の形に抜けた床を錆ついた手摺が囲んでいる。しかしここからでは中の様子は分からない。
「どうします? あの穴、一か八かで飛び込んでみますか?」
「いや、そのまま落っこちたらどうするのよ」
本道君が興奮気味に答え、加奈子さんが即座にそれを制す。
「やってみる価値はあるな。猿手足があと何体潜んでるのか分からないし、このまま闇雲に逃げ続けて全滅するよりかは、探索も兼ねて二手に分かれた方が得策かもしれない」
「全滅って…… ――――縁起でも無いこと言わないでよ!」
加賀山さんが口を尖らせても、柴崎さんは知らんぷりをした。
「でもどのみち、この先で二手に分かれなくちゃいけないんじゃないっすか?」
「うん、まぁ、そうなんだけどね……」
「え、どうしてですか?」
加賀山さんが答えようとする最中、ナビゲーターがそれを阻んだ。
『避けて下さい』
次の瞬間視界の右端をどす黒い影が覆い尽くした。
「止まって下さいっ!」
「え? ――――きゃっ!!」
案の定後ろに跳び去ろうとする回避システムを利用し、手前を走っていた加奈子さんの細腕を掴みぐいと引き寄せる。直後現れた黒い巨影が目の前の空間をかっさらっていった。右脇に置かれていた大きな機材が紙屑のように吹き飛び、足元の木箱は潰れてぺしゃんこになる。そして左脇から生えた天井まで伸びる鉄柱を激突の衝撃で弓なりに歪め、その恐ろしく長い腕を絡めて抱き付く。
『キケケキキッ……』
その正体は、――――猿手足だった。傍らに、二体の犬模様を引き連れている。
『敵三体、接近。推定危険度:三、四、三』
「先に行け!! すぐに追いつく!」
柴崎さんは声を張り上げると、左手に持ち替えた蛍光灯のつまみを親指で弾き点灯させた。




