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怪物の通る歩道橋  作者: 羽川明
十三章
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その四 カウンター・バリアー

「なっ……!」

 人ト非の瞳が淡い黄色に変化した瞬間、人ト非を捉えるべく牙を向いた無数の光の刃が数十センチ手前の空間でぴたりと制止したのだ。何かに弾かれたわけでも、風に(あお)られたわけでも無く、何も無いその空間に。まるで空気に突き刺さってしまったようでもある。そうして光の矢が次々にその二の舞になり、束ねられていくのに比例して、ぼんやりと、実体が明らかになっていく。

「なんだあれ?」

 レーザーの光が不意に途絶えると、何も無いように見えていた空間に白く濁った半透明の球体が現れた。それはレーザーが命中する度表面に白い波紋を作りながら何でもないように受け止め、内部へ取りこんでしまうようだ。そうして球の不透明度が増していく。

「バリアか何かか?」

『該当する情報が見つかりません。しばらくお待ちください』

「そう言われても……」

 とりあえず、人ト非の足は止まった。けど、このまま倒せるとは思えない。武器支援システムロックオンによって放たれ続けるレーザーはどうも赤いボタンを放しても止まらないようだ。このままじゃ今度こそエネルギー残量が切れる。

「ナビゲーター! 攻撃を中止しろ!!」

『検索終了。検索結果:0 該当する情報は見つかりませんでした』

「ナビゲーター!!」

『了解しました』

 パソコンのシャットダウンに似た効果音によって連射が止むと、照準が中央に寄せ集まって一つに戻った。束の間、人ト非の黄色い虹彩が放つ光が一層強くなったかと思うと、白い球体が砲弾の如く放たれくぐもった雷鳴が(とどろ)いた。

「っ!」

 その時、顔を咄嗟に両腕で覆ったのは、本当に偶然だった。

 バチンッ!!と弾けるような音が耳をつんざき、人ト非の短い悲鳴が上がる。

『ギャアァッ!!』

 視界を覆う両腕を取り払うと、目前にはいつの間にか半透明の壁が張られ、人ト非は、下り坂の(さかい)で両目を押さえ(もだ)え苦しんでいた。

「……これは、お前が張ったのか?」

『いいえ。マスターがかざした手にシステムが反応しました』

「そうか、さっき腕で覆ったときに……」

『アァ、アァァ……ア――――』

 目を覆い隠した指の隙間から、はらりと、小さく透明な何かが陽の光に煌めきながら零れ落ちていった。人ト非はそれを拾おうとするように視線を地面に巡らせたが、生い茂る雑草の中から探り当てるのは難しいだろう。落胆するように、両の腕がだらりと垂れ下がる。

「あっ!」

 露わになった瞳の色は黒く、先程までの溢れ出すような輝きは完全に失われていた。

 人ト非はにわかに焦り出し、坂を下って工場の入り口の中へ逃げ込む。

「そういうことか…… 追うぞ!!」

 背後から声が降りかかり、心臓が止まりかける。

「ど、どういうことですか?」

 脇を駆け抜けて行った柴崎さんの背中に慌てて問いかける。

「あれってもしかして、〝カラーチャンジャー〟? でも、どうして?」

 僕の横に並ぶようにして現れた上杉さんが戸惑うように眉を(ひそ)めた。斜め後ろに立つ本道君も、困惑した表情で押し黙っている。

「〝カラーチェンジャー〟って、何なんですか?」

「……だいぶ前から研究されてる〝マスター支援システム〟のことだよ。光るコンタクトレンズみたいな奴を両目に装着するんだ。あれは、原理自体よく分かってないいわくつきの装置で、効果は確か〝赤〟が捨て身で〝青〟が絶対防御、〝黄〟は――――」

「――――〝カウンター・バリアー〟……」

 上杉さんはどこか上の空のような声色で呟くと、はっと気付いたように走り出し、加賀山さんの後に続いて入口の中へ消えていった。

「カウンター・バリアー? それって、もしかして――――」

「あぁ。俺も映像でしか見たことねぇけど、さっき人ト非がやったのと同じやつだ。でも、あれはまだ開発さえされてないはずだ……」

「じゃあなんで?」

「……さぁな。人ト(あいつ)を追いかけるしかない! 俺達も行くぞっ!!」

「――――は、はいっ!」

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