その一 注目
「人ト非? コイツが? 嘘だろ……?」
目を見張り絶句する本道君。その横顔に僕は尋ねた。
「どういうことですか?」
「人ト非には、黒目を囲むようにして黒いリングがついてるんだ。でもアイツの場合、それが赤い。しかも明らかに光ってるし、血が充血してるわけでもなさそうだ」
「〝異個体〟なのかな?」
加奈子さんが、形のいい唇から慣れない口調で言う。
「異個体?」
『通常の個体と姿や習性が異なったり、危険度が異常に高い数値を示す怪物のことです』
「あ、あぁ、……ありがとう」
『礼には及びません。マスター』
その言葉とは裏腹に、声色が普段よりも心なしかやわらかく聞こえた。やっぱり僕のナビゲーターにも感情の起伏が備わっているようだ。時々構ってやった方がいいのかな?
「来るぞっ!!」
『ハハハハァッ!!』
人ト非が両腕を広げ叫ぶと、呼応するように三体の手々悪魔が現れる。
僕を含む全員の目の色が変わり、僕以外の全員が配置について臨戦態勢に入る。その姿勢は一見バラバラなようで皆共通して踏ん張るように足を広げていた。
ざっと見る限り、入口を中心に放射状に散らばった陣形になっているようだ。入口の右側に加賀山さん、その手前に本道君、左側に柴崎さんで、その手前に加奈子さんという具合だ。そして、正面にして陣形の中央に立つのは一人残された僕だった。どういうことだろう。
もしかして期待されてるのかな。
『避けて下さい』
「わっ!」
勝手に動く前に飛び退くと、数メートル前方を黒い細腕が貫いた。残りの二体は左右に散らばり、右は加賀山さん達が、左は柴崎さん達がそれに応戦する。
「……長いな」
いつも一瞬で現れては数秒の内に戻っていく黒腕が、いつまでも前方数メートル先を通過し続けている。どこまで伸ばす気なんだろう。
数秒後、腕が太くなったように見えた途端、流れがぶっつりと途絶えた。振り返ると黒腕の終わりに本体、というか胴体らしき塊がくっついている。腕を辿ると先の方でU字に折れ曲がって急カーブを試みているようだ。
「何してるんだ……?」
勢い余って体ごと投げ出されてしまったのだろうか? 何にせよチャンスだ。




