その一 道程1
「――――ったく。飛んだ無理難題を押し付けられちまったな」
「でもさすがにこのままってわけにもいかないし、仕方ないヨ」
本道君が面倒臭そうに溜め息を吐くと、先頭を歩く薫さんが平均台の上みたいに両手を広げながら答えた。さっきからずっと道路の白線だけを通る遊びに夢中になっている。
「おっとっと。……わわっ!」
バランスを崩し傍にあった鉄の柵に寄りかかると、見計らったように中で岩を砕く物凄い音が鳴り響き、薫さんは車道側に大きく仰け反ってしまう。
「……あ。あぁーあ」
その拍子に、車に轢かれこそしなかったものの、右足の踵が白線からはみ出してしまったようだ。がっくりと肩を落とし、大袈裟な溜め息までついて落胆する。
「ちぇ、なんたってこんなところで工事何かしてるのサ。このっ、――――いったぁ!!」
勝手な難癖をつけ、薫さんは鉄板を蹴り飛ばした。そして打ち所が悪かったのか、飛び上がり悲鳴を上げる。自業自得としか言いようがないので、ひとまず放っておくことにしよう。
「ビルでも建つんでしょうかね?」
「そういやちょっと前に、都市開発がどうとこで立ち退かされたとか加奈子がぼやいてたな」
「上杉さんもこの辺りだったんですか?」
「そのはずだ。見に行ったわけじゃないから詳しくは知らないが」
「ちょっと! わたしのことも少しは心配してヨ」
「この前スニーカーに鉄板入れたから工具落としても痛くないって自慢してたじゃねぇか」
「そうだっけ? ……み、身に覚えがありませんナ」
「あぁ、一人に付き十四回ぐらいな」
うっと言葉に詰まった薫さんには目もくれず、本道君はすたすたと歩き出す。
「待ってよぉー!」
薫さんは速足でその背中に追いつくと、横に並ぶのかと思いきや、そのまま追い抜いた。そうして再び先頭に立つと、上機嫌に鼻歌を歌い出す。音程が一音ずつずれていた。
「そろそろか?」
「えっ、あぁ、はい」
「どうした? 浮かない顔だな」
「――――実は、妹の顔が、思い出せないんです……」
「……そうか。まぁ気にすんな。うちじゃ皆そうだ。俺にも、昔妹がいたはずなんだけどさ、もう何も思い出せねぇんだ。ホント、どこ行っちまったんだろうな」
そういう意味じゃないんだけどな。




