その三 チャージ
「おぉっ!! やるなオヌシ!」
頭を抱え縮こまっていた薫さんが感嘆の声を上げる。束の間、二体が歩道橋の両端から再び姿を現した。さっきの腕の太さからして、大きいのと小さいのがいるはずだけど、この距離では区別がつかない。
『ィヒヒッ!!』
「な……!」
あろうことか、手々悪魔たちはそこでホバリングし続けたまま第二撃を放った。数十メートル先から蛇と槍の黒腕が飛来する。
「薫さん!」
「チャージに時間かかるんだヨ! キミくんが何とかしてっ」
「そんな無茶な!」
迷った末に左の大きい方に狙いを定め、レーザービームを連射する。その時にはもう、左右二方向から来た腕が目前まで迫っていた。慌てて壁を造り出すも、一撃で破られてしまう。
『避けて下さい』
「うわっ! ぐほぉっ!!」
膝にガクンと力が入り、物凄い勢いで後ろに倒れ込む。立て直すこともままならず、背中を地面に強打した。直後に頭上を二本の黒腕が交差する。
「わぁおっ、すっげぇー!!」
「おい、避け方雑になってないか?」
『申し訳ありません。エネルギー残量が残り30%以下を切っているため、回避システムの性能が低下しております』
「じゃあ、バリアもあんまり使わない方がいいのか?」
『はい。多くても残り三回までが望ましいです。それ以上使用すると命中精度が著しく低下してしまいます』
「ん、命中精度?」
「知らないの? 怪物レンズには命中精度支援システムが備わってて、下手くそでも当たるようになってるんだヨ」
「なるほど……」
――――通りで今までおもしろいように当たってたわけだ。
「ナビゲーター、命中精度支援システムの性能も低下してるのか?」
『いいえ。正常に作動しております』
「え? じゃあなんで――――」
「あわわ、キミくん、また来るよっ!」
慌てて振り返ると、歩道橋の両端に伸びた階段の下から複数本の腕が伸びて来る。
「――――なんでもありかよ! あれじゃ体に当てられないじゃないか」
照準を合わせようにも腕は上下左右複雑にうねり、全く狙いが定まらない。
「とりあえずどっかやって!」
「そう言われても……」
『マスター、歩道橋に上って下さい』
「ん? ……そうか!」
でたらめにレーザーを打って手々悪魔たちを引きつけながら、道路脇へ逸れて路地へ駆け込み、開店前の居酒屋をぐるりと回り込む。ここの歩道橋は建物の隙間にぴんと一の字の形で建っているから、こうしないと上れないのだ。曲がり角の先に現れたスロープなしの狭い階段を駆け上がる。
上り切ると、朝焼けを架ける電線が、手を伸ばせば届きそうなほど間近になった。
『左前方に敵二体の生命反応を確認。推定危険度、三』
「三!? 二しかいないんじゃなかったのかよ」
『避けて下さい』
「うわっ!」
ばっと勝手に上体が反れ、手摺に打ち付けた肩甲骨が鈍い音を立てる。ともあれ、どうやらナビの目論見通りに行ったようだ。目前を過ぎた黒腕は、一本だけだった。それもこれまでより格段に遅い。
『敵一体、撃破』
レーザーを打ち込んでから、その報告が入るまでに、コンマ一秒もかからなかった。左に振り返ると、複数本の黒腕が電線と歩道橋に阻まれ立ち往生しているのが柵の隙間から見えた。感電するのが怖いんだろうか。どのみちあれでは下手な動きはできないはずだ。
黒い縞模様の如く張り巡らされた電線は、そう簡単には潜れない。しかも階段付近は両側を壁に阻まれているから、回り込めるような隙間もない。
「それにしても、良く思いついたなこんなの」
『この辺りの地形はあらかじめインプットされていますので』
「ちょっとぉーっ!! こっち来ちゃってるヨ、ねぇ!」
薫さんの悲鳴が人気のない道路に反響する。
「しまった、もう一体いたんだっけ……!」
柵から身を乗り出すと、薫さんが中央分離帯の上で慌てふためいているのが見えた。バズーカが重いのだろうか、ぐらつくばかりでその場から動こうとしない。
「まだ発射できないんですかぁ!?」
精一杯声を張り上げると、素っ頓狂な怒声で返って来た。
「だから、連射しなきゃ当たんないって言ったジャン!! こんな広い場所じゃ躱されちゃうよ!」
「でもさっきは当たったじゃないですか」
「それは危険度二だったたからっ! わたしの装備じゃあれで一杯一杯何だヨ!」
「危険度二?」
そう言えば、まだ緑のボタンで調べてなかったな。




