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怪物の通る歩道橋  作者: 羽川明
七章
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その一 金髪少女

 薄紫の防火扉の奥は、〝転送室〟というらしい。あの緑色のカプセルからメタルワープするんだそうだ。そして、僕が侵入者を取り押さえたオフィスみたいな部屋は〝事務室〟、怪物の出現場所はその中ほどにあるモニターで見られるらしい。


「でもあれは危険度三以上しか映してくれないし、座標も結構いい加減なんだよネェ」

 前を歩く金髪の女の子が口を尖らせる。東に聳えるビルに遮られ、この付近にはまだ朝日が届いておらず、少し肌寒い。

「だから報告では一、二体なのに、実際行って見ると四、五体の危険度二がくっついてるなんてこともざらでサ、わたしみたいな非戦闘員はウカツに出歩けないんだぁ。ホント、困っちゃうヨネ」

 女の子が、頬を膨らませ不満気に振り返る。よくよく見れば、確かにその保護メガネは上杉さんたちや僕のものより小さくて細く、代わりに右のレンズが右目をすっぽり覆う縦長で、十字型をした緑色の照準がレンズいっぱいに表示されている。十字の交差位置は女の子の視線に合わせて移動する仕組みのようだ。

「じゃあ、普段は何してるんですか?」

「カイハツとかケンキュウダヨ!」

 声のトーンがあからさまに高なり、女の子は興奮気味に鼻を鳴らす。心なしか歩き方も元気になった。一歩進むたびに金色の毛先がぴょんぴょん跳ね回り(おど)る。

「ところで、どこへ向かってるんですか?」

「うぅん? 言ってなかったっけ。歩道橋ダヨ、ホドウキョー。座標通りに来たはずなんだけど、転送先がズれちゃったみたいダネ。まぁよくあることだし、気にしちゃダメダヨ」

「は、はぁ……」

 そう言われても、もうかれこれ三十分以上歩いている。それに、なんだかさっきから同じような道ばかり通っているような…… あの赤い屋根の家もさっき見た気がするし。

『マスター。先程から目標周辺で立ち往生しているようですが、どうかなさいましたか?』

「立ち往生? さっきからずっと歩きっ放しじゃないか」

 気のせいだろうか。前を歩く女の子の肩がビクリと跳ねた。

『リンちゃん、ひょっとしてまた迷ってるの?』

 女の子のナビゲーターだろうか。お母さんとお姉さんの中間みたいな声色の若い女性の声が聞こえてくる。口調も自然で優しげだ。

「そ、そんなわけないじゃん。なっちゃんはまだおとなしくしてて……」

『そう? 困ったらまたいつでも呼んでね』

 なんだか本当に、親子か姉妹みたいだな。僕のとは大違いだ――――

『困ったら、またいつでもお申し付けくださいね。マスター』

「お前は真似しなくていい」

『申し訳ありません』

 いつもの平淡な棒読みに、かすかに落胆の色が入り混じる。僕のナビも、会話していくうちに人間らしくなるのかな。

「あの――――」

「あぁっ! そう言えばジコショーカイがまだだったね」

 口元に不自然極まりない笑みを浮かべ、甲高い素っ頓狂な声で遮られる。

「わたしは凜土師(りんばし)(かおる)ダヨ。スティーブン、もしくは気軽にリンちゃんと呼んでくれたまえ! よろせこっ」

「……あの、誤魔化さないで下さいよ」

「ひや、ちがふて」

 薫さんは盛大に舌を噛んでしまったらしく、話題転換に失敗する。

「迷ったんですよね?」

「いや違くてネ。ほら、いきなり敵の居場所に行くと危ないじゃん? だから――――」

『敵の推定危険度は一~二程度です。メタルワープシステムで直接向かってはいかがでしょう』

「きっ、キミくんのナビはオモシロイことを言うねぇ。……ハハハ」

 やけに汗ばんで見えるのは、気のせいだろうか。でも、モニターの座標がいい加減なのは本当みたいだし、薫さんの言うことはあながち間違いではないような気がする。

『レーダーの精度に依存するモニターと違い、怪物レンズの誤差は最大でも一.五センチ程度です。問題ありません』

「そう言えば、そうだったかもね? あはは……」

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