凜土師 薫
偶然拾った怪物レンズが偶然最新型で、だからパスコードが通らなくて紛失後偶然最初にかけた僕にしか扱えず、おかげで僕は口封じされるどころかSTKのメンバーに。
……なんというかあまりにも、話が出来過ぎている。まるで、誰かに仕組まれているみたいに。いや、実際最後のは所長が最新型欲しさに仕組んだ、というか権力を振るったに違いないんだけど。こんなことって、あるんだろうか?
「あるわけがない、いるわけがない。……昔は俺もそう思ってた。けどそれは、大間違いだった。――――現に奴らは、俺の家族を殺した」
本道君は、扉に寄りかかりそう言った。そして、顔色一つ変えず続ける。
「確かにあれは、恐ろしい幻覚を見たことによるショック死なのかもしれない。でも、俺は見たんだ。この眼で。それに、本当にあれが幻覚だったとしても、それをレーザーで追い払えるのも事実だろ? だったら俺は戦う。いるかいないかなんて、どうだっていい。でも多分、いると思うぜ、俺は」
加奈子や風間がどう思ってるかは知らないが…… 本道君は去り際にそう言い残すと、早々と姿を消した。
怪物がいると思うかどうか、なんて、気易く聞いて良い質問ではないようだ。ここは直接本人に聞いた方が良いだろう。僕は仮眠室のやや背の低い扉を潜り、本道君の後を追う。角を曲がった先にある、薄紫の防火扉に埋め込まれた時計は、6:34だった。
僕にしては早起きだ。昨日の五時起きの反動だろうか。濃密な一日だったせいか、ずっと前の出来事のように感じる。妹の顔は、未だに思い出せないけれど。
薄紫の扉を全体重を乗せて何とか押し開くと、にわかに光が差し込んできて、視界が一気に明るくなった。その向こうでは、等間隔にパソコンが置かれた灰色の事務机が横一列に並んでいる。事務机には書類やファイルが散乱しており、さながら会社のオフィスのようだ。誰もいないみたいだけど、本道君はどこに行ったんだろう。
不確かな足取りで奥の部屋(確か所長室だったはずだ)に向かうと、ちょうど扉から出て来た金髪の塊とぶつかった。
「うわぁおっ!」
それは、一人の小柄な女の子だった。なぜか絵具で汚れた白衣の下に、不格好なキャラクターがプリントされたTシャツ、腰には黒袖の白いジャンパーを巻き、下は短めの白いキュロットスカートにショッキングピンクのスニーカーという出で立ちだ。そんな、奇抜というより風変わりな女の子は独特な仕草でばっと後ろに飛び退くと、子供のようにくりくりとした瞳でまじまじと見つめて来た。そして、
「……だぁれ?」
小首を傾げると、むらのある金髪の中でも一際異彩を放つ左の前髪の一房――――黄緑とピンク色のメッシュがふらふらと揺れた。
「キミくん、もしや噂の新入りクンかな?」
「……きっ、きみくん?」
君をくんづけにしたのか? ……なんで?
「やっぱりぃ! わたしの目に狂いは無かったネ!」
女の子はバッと大袈裟に指さし、無遠慮に覗き込んでくる。あまりの近さに気まずくなり、目を伏せると、伸び切ったつま先がぷるぷると震えていて、なんだか申し訳なかった。
「今ちょぉーどキミを呼びに行こうと思ってたところだったんだヨ! キミくんあれかな?
ひょっとしてあれかな? ……KYってやつ?」
「いや、それは確か空気読めないの略じゃ……」
――――ていうか古いな。
「まぁいいからいいから。トニーも角煮も、歩道橋までちょっち付き合ってヨ!」




