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怪物の通る歩道橋  作者: 羽川明
0章
1/87

プロローグ

 ――――深夜。遠雷とともににわかに降り出した大粒の雨が、歩道橋の上で踊る。

 そんな中その中ほどで、傘もささずに一人立つ、白衣の青年が居た。嘆息をつき空を仰ぎ見るその青年はなぜか、半透明の保護メガネをかけていた。一見して研究施設の科学者のような身なりであるが、まだ幼さの残るあどけない顔立ちと、泥に汚れた白のスニーカーがそれをおぼろげに否定している。

 青年が、保護メガネにかかった雨粒を拭おうと太いフレームに手をかけた刹那、豪雨の地鳴りを掻き消すように、不気味な笑い声が起こった。

『ヒィヒヒヒッッ!!』

 しゃがれた甲高い奇声。無論それは、青年から発せられたものではない。

「っ!!」

 欄干の向こうから突如飛来した黒い塊を、青年はまるで見計らったように(かわ)す。

 青年がそれを視線で追い立てフレームを軽く握ると、保護メガネからレーザーが(ほとばし)った。醒めるように青いそれは、歩道橋の端へと逃げる、黒い塊の背中を打った。

『ギャアァァッ!!』

『敵一体、撃破』

 一瞬の断末魔の後、保護メガネが喋る。機械音声の平淡な声色だった。

『次、来ます』

 振り返りざま、三度照射。均等に散った三つのレーザーが、夜の(とばり)を切り裂き駆ける。見返せばそれは発光弾だ。

 三者三様の悲鳴が起こり、伸びた黒腕が引っ込んだ。

『敵三体、撃破』

 触手の先に人の手首を生やしたようなそれは、闇に溶け込み、判別しがたい。

『上です』

 見上げ、迷わず引き絞る。猫の頭に先の黒腕を四つ生やした赤目の不気味な化け物が、裂けた笑みを浮かべたままレーザーに撃たれた。

『避けて下さい』

 咄嗟にしゃがんだ青年の頭上で、六つの黒腕が交差する。

「……武器選択、フラッシュ!」

 言い放ち、コンマ数秒の空白の後、青年はまたもフレームの淵を撫でる。そこには赤と緑、小さな二つのボタンが並んでいた。

『――――ァァアアアア!!』

 わずかに遅れて一際眩い閃光が迸り、仰ぎ見た青年の頭上を一掃した。

『敵二体、撃破』

「はぁ……」

 気の抜けた溜め息とともに、強張(こわば)っていた肩が(ゆる)む。

 束の間、ナビゲーターの声が張り詰めた。

『マスター!! 避けて下さいっ!』

 冷淡に聞こえたそれに、感情が灯る。直感的に振り返った青年の背後で、頭部だけの猫がせせら笑う。

『ィヒヒヒッ!!』


 ――――それは、本当にわずか数瞬の隙が産んだ――――〝死〟だった。


 次の瞬間、雷雨に濡れた青年の胴を、背を、どす黒い腕が(つらぬ)いた。

「ぐぅっ!!」

 崩れ折れる青年の目元から、滑るようにして落ちた保護メガネが、歩道橋の床で(むな)しく跳ねた。

 大の字になって横たわる青年の体に、一層強くなる雨が容赦なく打ち付ける。

「――――ごめん、加奈子。やっぱ、帰れそうに、ないや……」

 最後の力を振り絞り、虚空へ延ばされた腕が、ついにぱたりと倒れ伏した。

 流れ出た一筋の涙も、大粒の雨に掻き消える。

 不意に、沈黙を貫いていた保護メガネから、元の無機質な声が流れ出した。

『……告。緊急――――態発…。――――カラ…ェ…ジャー、発動』

すいません。いろいろと手違いがあって、消えてしまいました。

今度こそプロローグ。改稿版です。

これを機に全編読んでいただければと。

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