チュチュの過去〜第2幕
第2幕のはじまり。
カメラのレンズにガムテープをグルグル巻き付けたような映像が写り、コツコツと歩く音がする。
これは、チュチュが目隠しされて歩かされているのだろう。
けど、おかしい。
テープ越しに透けてる光は歩く音に対して上下の動きをせず、ただ前から後ろへ流れていくだけ。
もしかして、チュチュはなにか乗り物に乗せられている?
目隠しされて、乗り物に乗せられて運ばれている。
「どういうことだ?
目隠し、乗り物。
もしや、チュチュは貧民なんかじゃなくて、もっと低俗な奴隷なんじゃないか?
それで、これはチュチュがオークションに出されるか買い手が決まったかで運ばれているところ……
にしては、扱いが雑でないというか……
それに、第1幕との繋がりも読めねぇ」
おっ、なんか話し声が聞こえる。
うーん、でも声が小さくてよく聞こえねぇな。
「目隠しを」
ようやく1言聞きとれた。
低く落ち着いた声だった。
そして、メリメリとテープの目隠しが剥がされ、視界がゆっくり開かれる。
私は意表を突かれた。
想定していた景色は、冷たくて硬い床だったが、映っていたのはレッドカーペットだった。
大理石の床に柱に、壁には貴族と思われる人たちの肖像画。
天井には巨大なシャンデリア。
そして、私が最も驚いたのは、恐らくさっきの声の主だ。
その人は、玉座に座っていた。
つまりは、王様だ。
「王様……あれがか?」
王の姿はただの水の塊だった。
ちょうどミズタマを人型に伸ばしたみたいな感じだ。
人型のミズタマが玉座に座り、王冠をかぶっている。
ただ、輪郭だけの人型ミズタマは目も口も鼻も水で、表情も読めなければ、どんな顔かもわからない。
ただ、
「イケ好かねぇな」
私はこの王が嫌いだと感じた。
王はお付の者に何か言うと、お付の者がチュチュの乗る荷台を推した。
チュチュは荷台に載せられていたのだ。
そして、よく見ると、その荷台には魔法陣が描かれており、チュチュはガチガチに荷台の柱にくくり付けられていた。
「えぇ、大丈夫で御座います。
あれは魔法を封じ込める魔法陣。
例え008番でもこれは突破できないかと」
王が何か言ったのか、お付の者がヒソヒソとそう答えたのが聞こえた。
王はこちらに……チュチュに手を伸ばしてきた。
ちょうどチュチュの頭を撫でる感じだ。
ドロドロと汚い水が押し寄せ、全てを拒否するかのように映像が暗くなった。
「王がチュチュの頭を撫でた……?」
だが、チュチュはそれを喜ぶ感じはない。
チュチュは王の専属奴隷なのか……?
ってか、だとしたら王はとんでも無いロリコン変質者だな。
これはチュチュの過去の映像。
そして、ポッキーゲームの最中。
「もし、王が本当は人の姿なら、あのミズタマみたいな王はチュチュのイメージフィルターを通してみた王だ。
……汚水の王。顔の見えない王。
そいつが、身動きとれないチュチュの頭を撫でる……」
それはさぞかし気持ち悪いことだ。
私がそう思った瞬間、
──ポキンッ
8センチほどの長さになったポッキーがまた4センチほどのところで折れた。
なんだか食欲なくなっちまったが、それでもポッキーは旨いな。




