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意地悪な食事。


 「さっ、夕食夕食♪

 すげぇ豪華だぞ!さぁチュチュ、食うぞ!“ちゅちゅ、ぺこぺこ”なんだろ?」


 久々のご馳走に、私は浮き足立っていた。

 台車の上に並べられた大皿のサラダや肉、穀物を小皿に盛る。

 

 「チュチュ、お前も早くこっちへ来て……あ、そうか」


 チュチュの骨は板と包帯で固定されているが、バキバキに折れている。

 自分の力で起き上がるのは難しそうだ。


 「ったく、今度はさっきみたいな事するなよ?」


 私は、さっきチュチュが何かの仕返しにワザと抱きついて筋肉痛の刑に処してきたのを思い出し、再びやられないように、前もって釘を差してからチュチュを起こしてやった。

 背中を枕とクッションで固定してやる。

 

 「さ、食え」


 私は、自分のために取り分けたオードブルをチュチュに差し出した。


 「……」


 しかし、チュチュは受け取らない。


 「なんだ?嫌いなものでも入ってたか?

 どれ、取ってほしいものを言ってみろ

 特別に私が取り分けてやる」

 

 「……」


 しかし、チュチュは何も言わない。


 おいおい、まさかこれ全部嫌いな食べ物だとか言うなよな?

 だとしたら、マリー・アントワネットもびっくりの食わず嫌い女王クイーンだぞ?

 まぁ、ここにはパンもケーキもあるんだけどね。

 

 「リリス、」

 

 そこでようやく、チュチュは両手を出してきた。

 やっと皿を受け取る気になったか。

 

 だが、チュチュは皿を受け取る気などサラサラ無かった。

 皿だけに……はい、すみません。


 「あっ……」


 私は、チュチュの差し出された手の指を見てようやく気がついた。

 

 チュチュの指は固定板と包帯だらけ。

 この世界の箸の代わりである食器……見た目はスプーンとフォークが合体した感じのもの。を、掴めるとは到底思えなかった。


 「あちゃー。どーしよか、これ」


 うーん。

 一晩たてば、恐らくあの光が私やチュチュの体力や傷を回復してくれる。

 だが、それには一晩待たなくてはいけない。

 回復の光は夜中にやってくるからな。

 という事は、今夜は夕食抜きか?

 だけど、ハラ減ったしなぁ……

 私はなんの問題もなく食べられるというのにお預け喰らうっていうのも………ん?お預け??


 ニヤリ。


 私はあることを思い出した。

 そう、“お預け”。“お預け”だ!


 悪魔のリリスが顔を出す。

 ま、リリスって名前からして悪魔だから、今さら悪びれる事ないんだけどね♪


 「チュチュ、ミズタマ戦のあとの丼ぶり事件を覚えているか?」


 ふっふっふ、忘れたとは言わせねぇぜ。

 食べ物の恨みは恐ろしいということを教えてやるよ!


 案の定、チュチュは何のこと?とでも言いたげにキョトンとしている。


 「忘れたのなら、今から再現してやるから、しっかりと思い出せ!」

 

 そして私は、チュチュの目の前の丸椅子に腰掛けて、チュチュの目の前でパクリッ!

 オムライスのようなものを大きな口へ、頬張った。


 チュチュは一切の感情を表へと出しはしないが、内心はあっと、悔しがっていることだろう。


 へっへっへー、思い出したか?

 あの時の仕返しだ!

 

 あの時の食の恨み、忘れるべからず!


─────


 私の目の前でバターと醤油のようないい香りのする刺し身丼をパクパクと頬張るチュチュ。


 私の鼻と丼鉢の距離は1センチもあるかどうかわからない。


 「1口でいい!

 早く1口、お腹に何か入れさせてください、お願いします!」


 ……


─────


 思い出したか!!

 まぁ、あのあと私は食べ物の誘惑に屈すること無く見事自分を取り戻したという美談なのだが、あの恨みが今になってぶり返してきたというわけ。


 そこに私は仕返しとして、さらなる攻撃をチュチュに仕掛けるっ!


 「チュチュ、ほれ“あーん”」


 訝しげな表情を浮かべるチュチュ。

 だが、私が満面の笑みで赤い野菜が乗ったフォークスプーンをチュチュの口まで持っていくと、


 「あーん」


 それっ、今だ!


 ──カチンッ


 空振ったチュチュの上下の歯が鋭い音を立てた。


 ははははは!

 どーだ参ったか!私の完全勝利っ!

 1人じゃ何もできない体となってしまったのはお前の方だったようだな!

 

 「ぷくぅー」


 「フッ、そんなタコみたいな顔しても無駄だぞ。

 お前は大人しく私の食事を指をくわえることも出来ず、ただ眺めているがいい!」


 まさに完全勝利!

 正直、チュチュに私はやられたい放題だった。

 チュチュvsリリス戦において、私は異世界転生を果たしてから1度も勝利を収めたことがなかった。

 ジャンケンでさえだ!


 だが、見よ!

 いま私は臥薪嘗胆がしんしょうたんの末、知を持ってこの食を制した!


 最後には賢者が平和を勝ち取りこの食を勝ち取る!

 これ即ちリリスの事なり!!


 


 あっ、やべ。長老の口調が伝染うつった。


 まぁいい。

 さ、ハラ減った〜食事を再開しよう♪




 私がチュチュの目の前で2口目の料理を口にしようとしたその時、部屋の扉が豪快に音を立てて開いた。

 そして、その子たちが勢い良く駆け込んできたのだった。

 


次回、ゴブリン10兄弟が出てきます!

イラストTwitterにて公開中★

明日の投稿にも載せる予定ですのでよろしくお願いします♪

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