チュチュの願い。
「それで、チュチュ。
早速なんだが聞きたいことがある」
「…………ん?」
シリアスな雰囲気全開で切り出した私に、チュチュは腑抜けた返事で返した。
見慣れた仕草である、コテンッと首を傾ける仕草は枕に埋もれて控えめに。
「いや、“……ん?”じゃなくて、
突っ込まれるの分かってただろ?」
「…………ん?」
………
「いやいやいやいや、あれだけの事をやったんだ。
なんのことが分かるよな?
“ん?”とはならないはずだぞ?」
「…………んー?」
ちょっと語尾伸ばしただけじゃねぇか!
仕方ねぇ、はっきりと質問してやろう。
「キング戦の時、お前が沼に落ちたあとだ。
どうやって私の目の前に現れた?
キングの足を灰にしたあの魔法はなんだ?
そしてまたお前は瞬間移動をした。
風系統の適正がないお前がだ」
どーだ。
これだけはっきり言ってやれば分かるだろう。
まったく、手こずらせやがって。
まっ、あれだけの隠しワザを出し惜しみしたい気持ちは分からんでもないがな。
んで、考え込んでるようだが肝心の答えは?
「分かんない」
「………はい?」
今、なんて?
「分かんない。覚えてない」
うっそー!
「覚えてない?
あれを忘れたっていうのか?」
「うん」
いや、うん。じゃなくて!
そんなあっさり私の疑惑を肯定しないでくれよ!
私は時間をかけてチュチュにあれやこれやあった事を事細かく説明した。
チュチュがやった事をチュチュに説明するとはな。
話しててなんだか変な感じがした。
私の必死な説明にもかかわらず、チュチュの出した返答は……
「覚えてない」
なんてこった。
私は聞きたいことが山ほどあったというのに、当の本人が何も分かっていなかったとは……
思わずため息出ちまうぜ。
チュチュは唸りながら今の私の話を思い出そうとしているようだが、無理そうだ。
けどまぁ、しょうがない。
分からねぇことを根掘り葉掘り聞くのは可哀想だ。
「まぁ、それはもういい。
じゃあ今度はなんでお前が泣いてたか、その理由を聞かせてくれ」
「……ん?」
「でじゃぶ!
そこは流石に覚えてろよな!」
私が言ってるのは、託児所……ではないが、「きんぐ、ぺこぺこ」しか言わないキングを放置してグズグズ泣くチュチュをたしなめた時のことだ。
─────
「ひっく……チュチュが、1人でやる……リリス、言ってたから」
チュチュは大粒の涙をポロポロと零しながらよくわかんないことを言ってる。
え、私が何を言ったって?
「わーかった、わかった。
私がなんか言ったんだな?
それについては後でじっくり聞いてやるから、1人でやるとか言うな。…………」
─────
「……と、いうわけだ。
思い出したか?」
「うん」
ふぅ、ようやく思い出したか。
ってか、実は最初から思い出してただろ?
「んで、私がなんて言ったんだ?
なんでお前は泣いたんだ?」
そしてチュチュは涙のワケを語りだしたのだった。
チュチュの鉄製ポーカーフェイスを打ち砕き、水鉄砲を浴びせた、そのワケを!
「リリス、チュチュが必要ないって……。」
……
シーン。
えっ、終了?
そのワケはとても簡潔に説明された。
そして身に覚えがない。
「まて、私はそんな事は言った覚えがないぞ?」
「けど、光がリリスのバストを小さくした事が分かったあの時……」
─────
「チュチュ、明日からキスする必要なくなった。
私はこの光様の恩恵に預かってりゃ楽に、しかも胸のサイズを戻してくれることがわかった。
だからお前も無理してキスしてくる必要ないからなっ」
─────
あっ…………
「あ、あれはだな……ちがう。
ちがうんだ、あれは別にチュチュが必要ないって事じゃ無くって……」
あぁなんだこりゃ!
私は浮気現場をおさえられて必死に彼女に弁解する彼氏か!
アホらしい。
──ぐすっ……
「あわわわ!泣くな!鼻をすするな!
……いや、だからって垂れ流すな!」
ベッドサイドテーブルにガーゼの替えがあったので、私は慌ててチュチュの鼻をガーゼで押さえると、チーンッと、チュチュは寝たまま鼻から息を吹き出した。
鼻をかみ終えたけれど、チュチュの表情にはまだ影が落ちている。
うーん。
そのつもりはなかったとはいえ、泣かせてしまったのはなんだか気が引ける。
それにこのままションボリされっぱなしって言うのもなぁ……
「はー。分かったわかった、私が悪かった。お前は必要だ。
お詫びにお前の言うことを1つ何でも聞いてやるよ」
大きくため息をついた私。
それとは対象的に、私のその言葉を聞くなり、チュチュの顔がみるみる輝いていった。
やべっ、なんか嫌な予感……
「じゃあ、」
な、なにが来る……!?
「チュチュにリリスのお世話をさせて!」




