誇り高きゴブリンの歌feat.長老
──ダンダカダッダッ♪ダンダカダッダ♪……
軽快な太鼓のリズム。
──ダンダカダッダ♪ダンダカダッダ♪……
私の目覚まし時計って、こんなメロディーだったか?
──ダンダカダッダ♪キィ〜キィ〜♪ダンダカダッダ♪キィ〜キィ〜♪
なんか、きしんだドアを開け閉めするみたいな音も混ざってきたぞ……?
親父が起こしに来たのか……?
うーん、あと5分……
──ダンダカダッダ♪ダンダカダッダ♪ダンダカダンダカダンダカダンダカ♪
──キィキィキィキィキィキィキィキィ!!
「ええい!うるっさい!!」
目を覚ますと、私は奇妙な緑色の生き物に囲まれていた。
──シーン……
私の一言に、さっきまで喧しく鳴っていた太鼓がピタリと止んだ。
太鼓はこの奇妙な緑色の生き物が叩いていたらしい。
大太鼓の前でバチを掲げたまま止まってる者やら、小太鼓を担いで踊ったようなポーズで止まってる者やら、ざっと50匹はいるだろうか。
その奇妙な緑色の生き物は、初めてこの目で実物を見たが、私はコイツラをよく知っていた。
緑色のゴツゴツした体に肋骨が浮き上がり、その体の上にアンバランスなほど大きな頭が乗っていた。
その顔は醜く曲った鼻に飛び出た目、長い耳……
どれも取ってつけたようだ。
弱小モンスターの定番中の定番──ゴブリン。
んにしても、私らがここで会うモンスターって、緑色のやつばっかりだな。
1番カラフルだったのが、第1フロアの花のエリマキトカゲだぞ?
まぁ、そこは木の迷宮だから仕方ないのか……?
にしても……
「お、おい!これは何のつもりだ!降ろせぇぇぇ!」
私は何か長い木の棒にくくり付けられていた。
両腕を広げて固定され、地面から足が浮いている。
その足元でゴブリンたちが、まるで生け贄を捕え、宴会でも開いているような光景が、ただでさえ寝起きで不機嫌な私の目に飛び込んだ。
全く動かなかったゴブリンたちが、しばらくしてざわつき始める。
──キィキィキィキィ……なんd……キィキィ……生きてるじゃn……
キィキィう……うるせぇ……耳に響く……
けど、中には言葉を話せる奴もいるようだ。
──キィィィィイイイ!!!
私を中心としてドーナッツ状に宴会を開いていたゴブリンたちの外側……ドーナッツで言うとかじる所から歓声があがった。
そして、またあの太鼓のリズムが奏でられる。
──ダンダカダッダ♪ダンダカダッダ♪ダンダカダッダ♪ダンダカダッダ♪
それに今度は歌詞がつく。
「わーれらゴブリン、賢き生き物♪」
──わーれらゴブリン、賢き生き物♪
──ダンダカダッダ♪ダンダカダッダ♪
歌っているのは、ドーナッツをかじって出来たニックから現れた1匹のゴブリン。
そいつが歌った歌詞をその他ゴブリンたちが復唱する。
「わーれらゴブリン、賢き生き物♪」
──わーれらゴブリン、賢き生き物♪
「我ら!」
──我ら!
「ゴブリン!」
──ゴブリン!
「私は、?」
──長老!
「私は、?」
──偉い!
「私は、?」
──賢い!
「私は、?」
──気高い!
それに続いて、座って太鼓を叩く太ったゴブリンが、野太い声でこう歌い添えた。
「背ぇ〜丈は誰より、低いけど〜♪」
「黙らっしゃいッ!!」
さっきまで気持よく歌っていたゴブリンの長老が、ピシャリと太ったゴブリンを叱りつけた。
と、同時に太鼓も止まる。
なんだなんだ、なんなんだよコイツら?
ゴブリンですが、なにか?ってそういう話じゃなくて。
これはコントか何かか?
ったく、私も自分で自分に突っ込んじゃったじゃねーか。
その時、体を大きく見せようとしたのか、長老ゴブリンが大きく腕を広げ、シワ枯れ声を張り上げた。
「ウォッホンッ、皆のもの死体処理は終えたかな?」
死体?
そうだ、チュチュ!
あれから寝ちまったが、チュチュは無事なのか?
まさか……死体って……!!
「長老!こやつ、死体ではありませんでした!
まだ生きていました!」
小さめのゴブリンが、私の方を指差して長老ゴブリンに報告をする。
……って、死体って私か!!!
「降ろせ!私は死体じゃねぇ!この通り、ちゃんと生きてんだよ!!」
長老は鼻息1つ吐き出し、顎を擦ると、その顎で他のゴブリンたちを使って、
「降ろしてやれ」
と言った。
雑な手つきで私は降ろされたが、まだゴブリンたちは警戒しているのか、手足の紐は解いてくれそうにない。
まぁ、降ろして貰えただけ良いとして、私は地べたにあぐらをかいた。
「んで、何だこれは?
お前ら、何のつもりで私をあんな所にくくり付けた?」
私はゴブリンたちにナメられないよう、ふてぶてしい態度で会話を試みた。
「あぁ、これは死体処理の儀式だ。
こうして我らが拵えた十字架に死体を貼り付けて、神に忠誠を誓っているのだ」
私のふてぶてしい態度を超して、長老ゴブリンが鼻クソをほじりながら答えた。
「はぁ?お前たちの儀式がどうとかはどーでもいいが、私は死体じゃねえ!」
「ふん。そのようだな」
長老ゴブリンは、ほった鼻クソをピンッと指で弾き飛ばした。
うわ、汚っ!
「我らは生き物の魔力を目で見てその者の生死を判別する。
お前の魔力はスッカラカンでこれっぽっちも見えやしなかった。
だから我らはお前を死んだモノと思ったのだ」
あー、なるほど。
確かキングと戦った時に冒険者カードを見たら、私の魔力値は4だったな。
それで最後の1発として「温度操作(2)」を使い文字通り、キングの手から逃れたから魔力がスッカラカンになったと。
そういう事ね。
つまり、魔力が尽きても死にはしないのか。
1個いい情報が手に入ったぞ。
まぁ、そのせいで死体と間違えられてたんじゃ意味ない気もするが……
「そ、そうだ。それならチュチュはどうした!?」
「チュチュ……?」
「私といた水色のロリだ!」
「水色の……あぁーメシア様のことか!」
……………は?
「そうでしたか、そうでしたか!
貴方はメシア様のお連れ様でございましたか!」
………何言ってんだ、こいつ?
「これはとんだご無礼をっ!
なんせ、下級ゴブリンの見た事ですから情報がうまく伝わっておりませんで。
コラッ、何をしている!
早うお連れ様の縄を解かぬか!」
キキッと、また別の小さなゴブリンが私の手足を解放する。
にしても、手の平返すように態度変えたなぁ。
それに、メシア様だ?
メシアって、確か救世主の意味だよな?
さっきの文脈からいくと、チュチュが救世主?
なんの?
ゴブリンたちの??
えっ、わけわかんねぇ……
「おいゴブリンの長老、教えろ。
チュチュはどうした?今どこにいる?」
「メシア様でしたら、集落の安全な場所でお休みになっておられます。
まだ1度も目覚めてはおりませんが、ご無事です。
今夜になれば、メシア様もお連れ様も回復することでしょう」
今夜になれば回復する。
それは、おそらくあの光が第3フロアにもあるということだろう。
あの光には裏切られたが、体力と魔力は確実に回復してくれていた。
今はそれが何よりもありがたい。
私を縛っていた縄がすっかり解けたところで、長老ゴブリンたちは私をチュチュのもとへ案内することになった。
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