キング戦。生命線──
ミズタマ戦の時に何度も思った、“死にたくない”。
そう思うより、今は恐怖のみが私の頭の中を支配していた。
死にたくないとはまた違う、私は……
──逃げ出したい。
そう思ったのだ。
サイテーだな。
チュチュはもう助からない。
あれから時間がたってしまったからな。
それを見越して出てきた感情なら、なおさら最低だ。
私は現実に立ち向かう勇気をなくしてしまった。
前世で世間の言葉に耳をかさず、引きこもってアニメばっか見てたあの頃に逆戻り。
現実逃避と戦意喪失。
この恐怖から逃げ出せるのならば、死んだっていい。
チュチュが死に、戦う道を捨て、楽に死にたい。
「命は感じるものじゃねぇな。
感じた瞬間、その脆さに落胆し、命を維持しつづける事の難しさに絶望してしまうのだから」
仰向けのまま押さえ付けれた私は目を閉じ、独りで語りだす。
「“生命線”とはよく言ったものだ。
線は細くて、持っている側と反対側の端を見失ってしまう。
線の端をしっかり握っているつもりでも、知らず知らずのうちに、するりと手の中からすり抜けてしまう。
そんな、いつ失うかわからない“生命線”を掴み続けているのは、とても私には荷が重い。
だったらいっその事……」
「────リリス」
小さく、儚く、細く、けれどもどこか力強さと柔らかさを感じさせる女の子の声だった。
「……!?」
その言葉の主はこの世にもう居ないはずだった。
私の空耳か……
けれど、私はどこからその声が聞こえてくるのか探さずにはいられなかった。
しかし、探す必要などなかった。
目を開けるとその声の主は、私の目の前にいた。
傷だらけで、腕や足なんかあり得ない方へ曲がってて、白い肌が泥と赤黒い血液で塗りたくられ、2つに結った水色の髪まで血で固められている女の子が私の頭を優しく撫でる。
なんで……なんでチュチュがここに……!?
「こいつ、なぜいきてr……!?」
キングですら何が起きたのか分からないのか、驚きを隠せない声を漏らす。
沼とチュチュを交互に見やり、困惑している。
「線の端を見失ったら、チュチュが探してきてあげる。
リリスの手から線が抜け落ちたなら、チュチュがもう片方の端を持っててあげる」
優しく温かな指が、私の髪に触れ、次いで頬に触れる。
「線には必ず2つの端がある。
リリスとチュチュに1つずつ。
2人で生命線を持っていれば、たとえどちらかが手を離しても大丈夫。
たから……」
気がつくと、いつのまにか私の腰にツタのロープがくくり付けられていた。
「えっ……?」
「だから、リリスはチュチュを必要として」
相変わらずのポーカーフェイス。
なのに、チュチュが優しく笑った気がした。
チュチュが私から手を離し、キングの足元へ歩み寄る。
私は頭を上げ、その姿を目で追うと、私にくくり付けられていたロープの先がチュチュに繋がっているのが目に入った。
「ゲコッ!」
チュチュがそのままキングの足に触れた。
と、同時にキングの片足がサラサラと灰になった。
咄嗟にキングがジャンプする。
が、片足だけのジャンプゆえか、両足ジャンプの半分ほどしか高さがでない。
それでも大ジャンプには変わりなかった。
キングはご馳走である私を手にしっかりと掴んで、みるみる地面が遠くなっていく。
遥か下に見えるチュチュ。
……が、一瞬にして姿を消した!
私は驚き、チュチュの姿を探す。
そうだ、ロープはチュチュに繋がっている。
私の腰にしっかりと括り付けられたロープ。
それが真横にピンと伸びて、示す方向は生命線の先にあるもの────




