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キング戦。ゲームオーバー


 怒りで震えたキングの声と同時にガマの油が雨となって降り注ぐ。


 それと同時に飛び出してきたツタウルシのムチを私は咄嗟に地面を転がり回避する。


 だが、寝転がってる暇もなく2本目のツタウルシのムチが再び襲い掛かってくる。


 右、左、右、左……キングはツタウルシのムチを休む間もなく連打してくる。


 あんにゃろ……手数で押し切るつもりだな……


 できることなら私も攻撃を繰り出したい。

 だが、私の魔力はもう底をつきかけているし、そもそも私の手札ではキングの巨体に全く歯が立たない。


 チュチュの作戦は完璧だった。

 恐らくあれが今の私にできる渾身の一撃。

 ガマの油を利用して、チュチュの「ショック(1)」を借りて、作戦は成功した。

 なのに、まだ足りないっていうのかよ!!



 「“馳せる馳せる 伝えよ稲妻 森羅万象我が想い”」


 チュチュは「ショック(1)」を再び繰り出す。

 が、ブーストモードに入ったキングの敏感な神経にはその詠唱も電撃も遅すぎる。


 ──ビュンッ!


 ジャンプで電撃をかわしたキングはそのまま着地するより先に、キングのジャンプの風圧で浮き上がったチュチュの体を手の平で叩いた。


 細身で儚いチュチュの体が矢のように吹き飛んでいく。

 そして、その落下地点はジャングルの沼だったのが見えた。


 「チュチュ!!」


 ボチャンと、底知れない沼の水飛沫があがった。


 キングの皮膚は、触れると痺れる神経毒。

 

 もしダイレクトにキングの皮膚とチュチュの皮膚が触れ合っていて沼に落ちたならチュチュに這い上がる力はない。


 そうでなくとも、全身複雑骨折している可能性が高い。




 つまりは窒息必至。




 「チュチュ!!!」


 湧き上がるこの感情はなんだ?

 怒りか?悲しみか?絶望か?……




 答えは、全部だ。


 「つぎは、おまえだ!」


 「うがぁぁぁあああああ!」


 私は獣のような叫びをあげ、チュチュの落ちた沼へ走ろうとする。


 木製盾でツタウルシを受け流しながらも、足を気張り、吹っ飛ばされては立ち上がる。


 つまずき、転び、打ちのめされて額から流れる血液が目に入ろうが足を止めない。

 足が間にあわなければ手を使って前へ、前へ、チュチュの元へ!!


 「むだだ!」


 ツタウルシのムチ。その細い部分が私の真上から打ち付けられると、私の体がゴムのようにしなりながら跳ねた。


 そして私は地面に倒れ、悔しさのあまり土を掴む。


 くそっ!

 また私は何もできないのかっ!


 チュチュを助けに行きたい。行きたいが、キングがそれを許さない。

 

 次々に頭上から降り注ぐガマの油まで木製盾では防ぎきれず、まだ新しい服はボロボロのドロドロに。


 それでもツタウルシだけには捕まるわけにはいかない。


 私はとどめを刺そうと、大きく振りかぶったツタウルシのムチを避けるべく、立ち上がった。


 そして「ツタ渡り」で飛び回り、ジャングルの地面を蹴り、必死に回避しながら沼へ向かおうとするが……


 「あがっ!」


 近くの地面にツタウルシが突き刺さり、石の破片が私の肩や背中に突き刺さる。

 

 だがまだセーフだ。

 ダイレクトにあんなの喰らったら私の体は叩き斬られてしまうことだろう。


 ってかやべぇ……防戦一方。

 これじゃあ勝ち目がねぇ。

 勝ち目どころか逃げることすらギリギリだ。

 チュチュを助けにいけねぇ!


 足場も相当悪くなってきた。

 これじゃ捕まるのは時間の問題……

 って、やべえっ!!


 「っつ!」


 ほぼ直撃しそうになったキングの1番太い部分のツタウルシを間一髪、木製盾で防いだが、その絶大な威力は殺せない。

 私の体は、柔らかなジャングルの湿った地面にめり込んでいく。


 捕まえたと言わんばかりに私を押さえ付け、顔を覗き込むキング。


 今から私を食べるのだ……


 ダラダラと垂らされたガマの油……つまりキングの唾液が脇腹にかかると鋭い痛みを私に送る。


 「うがっ、あぁ!あああ!!」


 まるで全身を焼き尽くすような痛みに私は喘ぐ。

 

 太陽を遮り、キングの鼻先が私に近づくのがその巨大な影で分かった。


 ゆっくりと視線を向けると、勝利とこれから口にする私の柔らかな肉の美食を思い描いて溢れる笑みをニヤリと溢すキングの顔は、はぁはぁと臭くて生温かい。


 ベロリとめくれた私の皮膚から覗く、理科室の人体模型の半分のような筋肉。

 

 こんな時に何を、と思うかもしれないが、私はこの光景に生き物の生命を感じた。

 

 いや、こんな時だからか。

 つまりは、人は死を覚悟した瞬間、命の有り難みを噛みしめるのだ。


 「はなせ!私は、チュチュのところへ行くんだ!」


 「ちゅちゅ?さっきのやつか」


 ふっ、と鼻で嘲笑するキング。


 「あいつはもうしんだ。きんぐ、ころした。」


 「黙れ!」


 そんなの認めない!


 「しんだ、しんだ、しんだ。もう、たすからない」


 「うるさい……」


 「おまえ、もたもたしたから。あいつ、しんだ。おまえ、なにもできない」


 「言うな……」


 「きんぐ、やくたたずのおまえ、くってやる」



 あぁ、もうダメだ。

 キングの言う通り。

 役立たずの私はここでキングの餌となる……

 私はもう、ここで死ぬんだ。

 

 私がモタモタしてたからチュチュも助からない……


 ヘルガーデン第2フロアのボス、キング。

 私たちのRPGじんせいは、ここでゲームオーバーだ。


 


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