第2フロアはアマゾンでした。
「……っててて……いてぇ、尻打った……」
──ドンっ
そして、私の後に続いて落ちてきたチュチュに玉突きの要領で思いっきりぶつかられた。
いくらチュチュが軽いからとはいえ、そこに重力加速度が加われば相当な衝撃波を生み出す。
私は額を地面に打ち付けるように勢いよく倒れ込んでしまった。
チュチュは私がクッション代わりになったので無事らしいが。
「いってぇな!ったく、私が落ちてしばくしてから落ちてきやがれ!
間を置かずに続いたらぶつかることくらい想像がつくだろ!
っつーか、早くどけ!」
チュチュが私の上から降りるのを待たず、私は体を起こすと、チュチュはコロンと転がり落ちた。
私は構わず立ち上がり、パンパンと服の全面をハタいた。
そして周りを見回す。
ヘルガーデン第2フロア。
そこは、まるでジャングルの中だった。
伸び放題の草に、ケバケバの花。しかもなんか、臭い。
どこから伸びているのか知らないが、ツルが絡まってぶら下がっているし、紫の斑点模様をした小さな蜘蛛が、粘液性の汁を出している。
ひと言で言うと、荒れ放題のアマゾン。
そんな感じ。
ってか、じめじめしてて蒸し暑い……
湿気を豊富に含んだ地面だったため、落ちた衝撃でケガこそ無かったが、服に付いた汚れが払いにくい。
全面の土汚れをはたき落とした私は、次に尻をパンパンとハタこうとした……
が、
──ドンっ
せっかくハタいた全面の汚れを再びつける羽目となってしまった。
なぜなら、チュチュが私に飛びかかり、地面に伏せさせたからだ。
ったく、仕返しのつもりか!?
「ってめぇ、なにしy※aஇ!★§」
「しっ……」
背後から両腕を回したチュチュは、半ギレで声を荒げる私の口を両手でしっかりと塞ぎ、耳元で静かにと合図を出した。
少々腹が立ったが、よくよく考えてみれば、こいつは無意味にこんなことをするやつじゃねぇ。
私はそのままの体勢で息を潜めた。
すると……
「おめぇ、やっべぇなwww」
「いやぁ〜俺天才だわぁwww」
「自分で言うなよ、バカのくせにwww」
「けどまじウケるwww」
「それな、ウケるwww」
なんだ、こいつら?
頭悪そうな会話だなぁ。
何がそんなにウケるんだ?
語尾にワラワラつけてりゃいいって思って会話してるだろ?
私は、私の口を塞いでいるチュチュの手を軽くたたき、もう手を離せと合図した。
そして音を立てないようにチュチュが私を解放すると、私もそっと体を起こし、声のする方を覗いた。
するとそこには、見覚えのある細長く、ウロコのある体が5つ。
フェルと同じ種族、弱小モンスターのウロコ蛇だ。
しかし、そいつらはフェルと同じウロコを持った蛇の形をしていても、フェルとは似ても似つかなかった。
フェルの身なりはきちんとしており、黒の燕尾服に蝶ネクタイ。イギリス貴族を思わせるハットを上品に頭に乗せ、背筋も真っ直ぐ伸びていた。
しかし、この5匹のウロコ蛇の身なりは、グラサンをかけたり、鼻ピアスをしていたり、派手な柄のタトゥーを入れていたり、だらしなく伸びた腰パンジャージを履いていたりした。
蛇の体のどこからどこまでが腰かなんかは全く分からなかったが、何となくそんな感じで……とにかくだらし無くて柄が悪い。
私が言いたいのは、フェルとは大違いだということ。
そして何より、違ったのは中身だ。
「あいつ気がつくか?www」
「気がつくだろwww」
「あんだけ荒らして気づかなかったらお前以上のバカだわwww」
「それなwww」
「うわ、ひっでwww」
ほんと、ギャハハハって、下品な笑い方しやがって。
それに、まだよく分からないが、どうやらこいつら、誰かの何かを荒らしたらしい。
誰の何をどう荒らしたのか、情報が全く入ってこないのだが……
まぁいい。
こんな田舎のヤンキーみたいなの相手にするだけ時間の無駄だ。
ここは見なかった事にして先へ進もう。
別段、この井の中の蛙ならぬ蛇たちを恐ろしいとも何とも思わなかったが、触らぬ神に祟りなし。
軽率な行動はとらないって、さっき決めたばっかりだしな。
うん、なんと冷静で賢い判断。
さすが私。
私はそのウロコ蛇5匹に見つからないよう、右向け右してスルーすることにした。
だが次の瞬間、そいつらの口から、“彼”の名前が聞こえたその時、私の冷静さは、彼方遠くへ吹き飛んでしまった。




