慎重に行くつもりだったんです。
こうして私たちは新たに、フェルの妹を連れ戻すという任務を追加して、ツタのハシゴを登った。
まったく、木魔法の迷宮なんだから、そこはケチらず木製ハシゴにしてくれよな。余裕だろ?
こんな頼りないツタのハシゴをじゃあ、踏みしめる度にギシギシ鳴って、いつ切れるかと気が気じゃない。
「ふぅ……着いた」
なんだかんだ心で文句を言いつつも、10分ほど登り続け、私たちは大きなドアの鍵穴の前に辿り着いた。
鍵穴というよりは、まるで洞窟の入り口だ。
「うぉっと……」
私がまず、鍵穴の入口によじ登ると、穴の先からムワっとした熱風が吹き付けてきた。
一瞬のけぞったが、なんとか堪え、穴の縁に足を着ける。
「ほらよっ」
そして私は、後ろから続いて登ってきたチュチュに手を貸す。
体力、筋力、共に無いチュチュにとっては、いくらロッククライミングでないにしても、ハシゴを10分間登り続ける事は大変なことで、この熱風を受けたら真っ逆さまに落ちていってしまうのは目に見えていた。
いや、その前にチュチュは今にもハシゴから手を滑らせてしまいそうだ。
私はチュチュの体をぐいっと引き上げる。
「リリス、ありがとう」
「ふんっ」
私がほしいのはお前自身じゃなくて、お前の戦力と呪いを収める手段としてだからな。
勘違いしてお礼なんか言ってんじゃねぇよ。
それはそうと、
「ここから第2フロアへ行くのか……」
第1フロアと第2フロアを繋ぐ鍵穴は暗く、長く、先がどうなっているかわからない。
ムワっとした熱い空気だけがその先の世界の情報。
嫌な予感しかしなかった。
「よ、よし。慎重に行くぞ」
軽率な行動は命取りだと、第1フロアで学んだ私は慎重に行くことにした。
この先に待ち受けるものから身を守るため、私は背中に背負ったリュックに引っかけてある木製盾を持って、鍵穴の中へ1歩踏み出す。
──ツルッ
「あ……」
しまった、ここまで登ってきたのなら、次のフロアへは下りて行くという可能性を考えていなかった。
登山したなら下山があるこということだったのだ。
「うわあああああぁぁぁぁぁ……!!!」
慎重に行くと決めた直後、私はものすごい勢いで、鍵穴の中の滑り台を真っ逆さまに落ちていったのだった。




