表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/264

パンケーキの朝食。



 パンケーキの匂いだ。

 小麦粉の焼けるいい香りと、鼻をくすぐる蜂蜜の独特のいい香り。


 私の家の朝食にパンケーキなんて、そんなオシャレなものは出たことはなかった。

 朝起きると、親父おやじと私の分のパンをトースターにかけ、親父が起きてきたら一緒にそれを食べる。

 それ以外の朝食を、私は知らない。


 「あっ、おはようございますリリス様」


 「おはよう、フェル」


 「ちょうど今、朝食のご用意ができましたよ。ささ、こちらへ」


 結界花の花びらが散り、結界の効果は切れていた。

 私は花のベッドを降り、フェルに招かれるまま白塗りされた陶器製のイスに腰掛けた。


 「あぁ、チュチュ様!

 私がお運びいたしますのでどう

か……」


 フェルが慌てた声を上げた方を見ると、カラフルなパンケーキの乗った皿を運んできた。


 そして私の前の丸テーブルに、6枚の蜂蜜がかかったパンケーキの皿を置いた。


 「リリス、これ美味しそう」


 チュチュは瞳の輝きが蜂蜜に反射するほどパンケーキに顔を近づけている。


 「こちらはこの迷宮の名物、フラワーパンケーキです。

 小麦粉種フラワーシードの粉を果実エキスで練り込み、木の実を練り込み、花をトッピング。仕上げにハニービーの蜂蜜をかければ絶品です。

 温かいうちにお召し上がりください」


 フェルは取り分け用の銀食器、それにナイフとフォークを3人分持ってくると、私たちにパンケーキを取り分けた。


 「さんきゅ」


 パンケーキを1口サイズに切り、口へ持って行こうとした時、私は一瞬ためらった。


 ヘルガーデンの食べ物だ。

 昨日のこともあって、もしかしたら毒が仕込まれているかもしれない……


 昨日の二の舞いにならないよう、私はこれ以上軽率な行動をとってはいけない。

 フェルだってここのモンスターだ。

 しかも知恵がある。

 油断してはいけない。


 だが、それは無用な心配のようだった。

 フェルはパクリとパンケーキを頬張り、続いてチュチュも美味しそうにパンケーキを食べている。


 「リリス、これ美味しい」


 そもそも、もしフェルが私たちの命を狙うなら、とっくにやってるだろうし、助けたりなんかしない。


 私もパンケーキをいただいた。

 

 「おぉ!うめぇなっ」


 「それは良うございました」


 この世界に来てから、初めて食べた甘い物だ。

 前に食べた小麦粉製品があのセメントパンだっただけに、この美味さには感動した。


 「よしっ。これでエネルギー補給は完璧だな。

 チュチュ、これを食べたら第2フロアへ向かうぞ」


 私はパンケーキを切り分けて頬張りながらチュチュに言った。

 チュチュはもっと幼い子がやるように、手をグーにしてナイフとフォークを使ってパンケーキを切り分けながらコクリと頷く。


 ヘタクソだ……

 こいつ、ナイフもフォークも使ったことないのか?

 やっぱりチュチュは貧民の子だったのだろう。


 「それでしたら、僭越せんえつながら私が第2フロアの入り口までご案内いたしましょう。

 ここからですと、近道をすれば2日で行けますよ」


 「まじか!助かるぜフェル」

 

 

 そういうわけで、私たちは朝食を終えると、早速フェルの案内のもと、ヘルガーデン第2フロアへ続く入り口へ向かった。


 私が目を凝らして地図を追い、迷いながらも右往左往してきた迷路道を、フェルはスイスイと先導していく。

 さらに、おそらく地図には載っていないだろう私たち子供しか通れないような壁の穴や隙間まで通って近道しまくった。


 道中、あのオバケ食虫植物の類やモンスターに出くわしそうになったが、フェルがいたので上手くやり過ごせることまででき、私たちの新しい剣や盾の出番はなかった。


 休息や食事も、いくつか点在するフェルの拠点でとることができ、フェルは張り切って食事を用意してくれた。

 私たちは、とても仲良くなった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ