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花のベッドで眠る。


 フェルはひっくり返した植木鉢に腰掛け、話しはじめた。


 「わたくしの家系は、あるご先祖様の犯した罪を償うべく、代々この……今はヘルガーデンと呼ばれていたのでしたっけ。

 ヘルガーデン第1フロアの庭管理をしてきました。


 かつてのヘルガーデン第1フロアは、それはそれは平和な迷宮でした。

 木の実は鈴成に、果物はたわわに実り、おかげで魔獣や他のモンスターたちと穏やかに暮らしておりました。

 

 このまま平和な暮らしをずっと続けていきたい。

 これ以上の幸せを望んではいけない。

 私たちはこのヘルガーデン第1フロアで生まれ、ヘルガーデン第1フロアで死んでいく。

 それでいいのです。


 私たちは、罪を背負った家系。

 この庭から離れてはいけない。


 私はそう思っておりましたし、それで満足しておりました。


 けれど、妹はそうは思っていなかったようです。


 ……あの日、半年ほど前のことです。

 妹がヘルガーデンの第2フロアへ足を踏み入れてしまったのは……」

 

 私はフェルの言葉に耳を傾け、チュチュは花のベッドですやすやと眠りこけていた。


 ハーブティーに映る自分の顔に、妹の顔を重ねながらフェルは続ける。


 「妹のルーシーは好奇心旺盛で、ご先祖様の犯した罪にも大変興味を持っておりました。


 ずっと、ヘルガーデンの最奥にあるブドウの木を見てみたいと申しておりました」


 「ブドウの木?」


 ブドウの木という言葉に私は反応せざる負えなかった。

 なぜなら、私たちの受けた依頼も、ブドウの採取だったからだ。


 「えぇ。私たちのご先祖様はある罪を犯しました。

 それは、ある日訪れた2人の冒険者を騙し、触れることすら許されないヘルガーデン最奥のブドウの果実を食べさせてしまったのです。


 そのブドウは、1年に1度実を落としますが、すぐに新たな実を1つだけつけます。

 古い落ちた実は、このヘルガーデン全ての栄養となり、だからこそこのヘルガーデンは豊かで、平和を保っていられたのです。


 しかし、実を食べてしまっては、落ちる実もない。

 栄養源が無くなったヘルガーデンは荒れました。

 食べ物が無くなり、魔獣たちが争いを始め、モンスターが暴れまわりました。


 神はご先祖様に怒り、罰を与えました。

 それは、2度とこの第1フロアから出ないこと。そして庭の手入れを末代まで続けること。


 その条件のもと、神はヘルガーデンを元の美しい庭に戻し、ブドウの実も元通りになりました。


 そういうわけで、私たちはこの第1フロアから出てはいけないのです。


 それなのに、妹は好奇心から第2フロアへ足を踏み入れてしまった。


 再び神は怒り、ご覧の有様、この迷宮はヘルガーデンと呼ばれるまでに落ちてしまったのです。


 それ以来、妹とは会えておりません。


 けれど、まだどこかで生きていてくれたら……

 そう願い続け、私はこれまで迷宮の迷路や草花の知識を駆使して生き延びて参ったのです」


 語り終えたフェルの表情は硬かった。

 だが、抱えていたものを私たちに話すことができ、少しすっきりした様でもあった。


 「そんなことがあったのか……」


 「私ったら、会ったばかりの方にこのような……

 申し訳ございません」


 「いや、いいよ。

 あ、そう言えばフェルは自己紹介したのに私たちはまだだったな。


 私は、駆け出し冒険者のユリ・リリス。

 んで、こっちがリップ・チュチュ」


 「リリス様にチュチュ様。

 可愛らしいお名前だ」


 全くそうは思わない。

 あの鬼死女神のダッサイネーミングセンスによりこんな名前になってしまったことを屈辱的に思うくらいだ。


 「今日はリリス様もお疲れでしょう。

 結界の花を配置いたしますので、どうかご安心してお休みください」


 「ん?あぁ、ありがとな」


 するとフェルは、チュチュが眠っていて、私が縁に腰掛けている花のベッドの周りに、クリスタルのような花が咲いた鉢植えを6つ、時計の2、6、10時と4、8、12時の位置に置いた。


 「それでは、おやすみなさいませ」


 フェルがそう言うと、私の返事を聞かないうちに……と言うか結界の中の音は外に聞こえないらしい……向こうの方へ行ってしまった。


 「えっ、おいフェル。

 ベッドが1つしかないぞ?

 私のぶんのベッドは!?」


 私は花のベッドから降りるまでもなく手が届く結界の壁を叩いてみるが、壊れるどころか音すらしない。

 まぁ、ちょっと叩いたくらいで壊れてもらっては困るのだが、私はこの狭い空間に、チュチュと隔離されてしまったのだ。


 「冗談じゃねぇぜ!

 ベッドから降りて寝っ転がる隙すら無いじゃねぇか!

 ベッドはチュチュが寝てるし、私はどこで寝るんだよ!」


 花のベッドは、パステルカラーの小さな花が無数に集まってフカフカにできている。

 花1つ1つが随分としっかりとした造りになっているためか、私とチュチュの二人を乗せても潰れやしない。

 自然な花の甘い香りがアロマ効果も与えている。

 

 私はさんざん喚いたが、体力が尽きかけているチュチュはぐっすりだ。


 忘れかけていたけれど私だって1度毒に侵されている。

 迷路を駆け回った疲れも今さらながらどっと出て、瞼が重たくなっていき……


 ……そのまま知らず知らず、私とチュチュは、狭い花のベッドの上で、互いの頭と足を向けるような形で眠り込んでしまったのだった。


挿絵(By みてみん)




ちょっと気合入れてイラスト描きましたっ

どうでしょうか……?

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