ヘルガーデン第1フロアの番人。
【フェル】
ウロコ蛇。
ヘルガーデン第1フロアの庭を代々守り続ける家系に生まれた長男。紳士。
普段は弱小モンスターだが、第1フロアを熟知し、第1フロアの中では誰にも負けない。
1歩前へ踏み出すと、狭くて気がおかしくなりそうな迷路道からは一転、丸く開けた空間に出た。
至るところに薔薇の木や果物の木、色とりどりの見たことのない草花、鉢植え、蝶々やミツバチに似た虫までいた。
「えーっと、乗り切れ草は確か……ありました!こちらです!」
フェルが鼻先で示した地面を見ると、そこにはオレンジ色のふっくらとした花弁が見るものに勇気と希望を与える花が咲いていた。
「ささ、お早く。この花の蜜が孤独死草の毒を解毒いたします」
フェルに教えられ、花の蜜をチュチュの口の中に垂らした。
すると、もう呼吸をしているかすら怪しかったチュチュの顔色がみるみる元に戻り、水色の瞳が瞼の向こうから姿を現した。
「……リリス?」
気を失っていたチュチュは、ここがどこだか、何が起きたのかを確かめるように視線を動かし、最後に私に焦点を合してきた。
私は安堵にも似たため息をひとつ吐き、
「ったく、お前が死んだら私の胸がヤバイからな」
また悪態をついた。
「チュチュ、こっちはお前に孤独死草の解毒薬、乗り切れ草をくれたこのヘルガーデン第1フロアの番人、フェルだ。礼言っとけ」
「そんなもったいない……」
「ありがとう」
相変わらず無表情だが、感謝の気持ちは伝わっただろう。
感謝されたフェルは慣れていないのか、顔を赤く染めている。
「お、お茶でもお入れいたしましょう。
解毒されたとはいえ、まだ体力を回復しなくてはいけませんからね。
さぁさぁ、どうぞこちらへ」
まだ立てるほどにはなっていないチュチュを私が背負い、フェルの後に続き、花のベッドの上にチュチュを降ろした。
「こちらは“癒やしの朝露”というハーブティーに“天使のヨダレ”とも言われる花の蜜を入れた飲み物です。どうぞ」
朝露にヨダレなんか入れるなよ!と、突っ込みたくなるような飲み物だったが、めちゃくちゃ美味かった。
「そう言えば、さっき言ってたフェルの妹っていうのは?」
私は体力が戻る間の暇つぶしに、軽い気持ちで尋ねてみた。
だが、フェルにとってはそうでも無かったようだ。
フェルの顔に暗い影が落ちた。
「あっ……言いたくなかったら良いんだけど……」
気まずそうに私が言うと、フェルはゆっくりと首を振った。
「いえ、寧ろ聞いていただけますか?」
心の中に溜めていた暗い影を押し殺すかのように笑みを浮かべてみせるフェル。
これは何かある。
私はコクリと頷いた。




