孤独死するのはウサギだけじゃないんです。
汚い描写(嘔吐)注意です。
ネガティブ注意です。
曲がり角というものは、その先の道を覗き込むまで、なにが待ち受けているのかわからない。
それは恐怖だ。
ただの道でも気を抜いて突き進んでしまうと、交通事故に遭ってしまう危険性もあれば、突如現れた水溜りにハマってしまうかもしれない。
前世の曲り角だって、よくよく考えてみればこんなにも危険だったことに今さら気がつく。
ましてやここは、地獄の庭と呼ばれる迷宮の中。
曲がり角でばったり出くわすのは車の代わりに魔獣。
水溜りの代わりに魔法トラップだ。
この世界に、歩行者優先だとか、安全第一の原則は通用しない。
弱肉強食。それがここ、ヘルガーデン。
「やばい、これは本当にやばい……どうしたらいいんだよ!絶体絶命じゃねぇか!」
私は明らかにパニックになっていた。
頭を抱え、右往左往する。
「そもそも、こんなザコの私が数多の冒険者たちが挑み、生きて帰れなかった迷宮の最奥にどうして辿り着けると思ったんだよ!」
そして、そんな迷宮で1人になってしまった不安や恐怖が積り、やり場の無くなった苛立ちの矛先はどんどん自分へ向かっていく。
私はなぜかあの時、自分は大丈夫という考えが少なからずあった。
それは、私にかけられた呪いをリセットするのに、迷宮最奥のロリモンスターにキスしろとかいうふざけた条件があったからに他ならない。
「あの鬼死女神が宛にならない事なんて、分かりきっていたのに……
私はなんて愚かなのだ……
こんなんだから、私は世界から見放されて……きっと今ごろチュチュも私のことなんて……」
あぁ、なんかだめだ。
どんどん気分が落ち込んでいく。
こんな時にチュチュの名前を出すなんて、末期だな。
「私って、本当にどーしよーもなくダメなやつだ……
ザコのくせに調子のっちゃって。
ひとりじゃ何もできない、ただの元オタク。
女嫌いのくせに、チュチュやカレンたちに頼ってばかり。
あげくそのチュチュとハグレてこのざまだ。
私って女以下。クズ。ゴミ。
あぁーダメだ、どんどん自己嫌悪の渦にハマっていく。
なんか体までダルくなってきやがった……」
その場に私は尻餅をつき、足を投げ出す。
本当に体が重い。何もやる気が起きなくなって、頭もボーッとして、視界まで歪んできやがった。
ははっ、ただでさえ迷路みたいな道なのにますますこれじゃあ……
「……ゲボッ!!」
!?
突然気持ち悪くなった私は、へたりこんだ地面の上に嘔吐した。
(なんだ!?なんで突然……)
「うぇっ……うっ、ゲボッ……」
ツーンとした嫌な臭いのする黄色い吐瀉物がぶちまけられた。
胃が痙攣し、酸性の液体が喉を焼いていく。
(これは明らかにおかしい……
この体になってからまだ日が浅いから知らねぇけど、もしかして持病とかか!?)
あれこれ思考を巡らす余裕もなく、それどころか意識がだんだん遠のいていく。
(あ……私また死ぬのか。
しかも今度は謎の持病で、突然こんな迷宮の中で、ひとりぼっちで……)
地面に仰向けになり、目を開けると、青白い月が私を嘲笑するかの如く、まあるくそこに浮かんでいた。
(当然の報いだよな。
私なんて、もういない方がいい。
この世界に転生したって何の役にも立たず、迷惑ばっかりかけて……)
「けど、やっぱ死にたくねぇ。死にたくねぇよ。
こんな知らない場所で、誰からも見送られることなく寂しく死んでいくなんて、どんなことをしてきた奴でも死に際くらい……迷惑な奴の最後の迷惑だと思って、誰か……誰か……」
助けてくれ、チュチュ……
「本当に私は迷惑な奴だ。特にチュチュには迷惑かけたな……巻き添え食らって私とキスしなくちゃいけなくなって……せめて最後、あいつに謝っt……」
抱え切れなくなった孤独感と後悔の尾を引きながら、ヘルガーデン第1フロアのど真ん中で、とうとう私は意識を失ってしまったのだった。