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迷路迷宮でネガティブに。


 これまでの冒険者たちがマッピングしたヘルガーデンの地図を見ると、ヘルガーデンは4つのフロアに別れるそうだ。

 

 いま私たちのいる第1フロアは、まるで英国の庭を思わせる迷路。

 植物の壁が細い道をいくつも複雑に繋げては別れ、T字路やY字路を作り出している。


 「ええっと、今この道がここだから次の突き当りを右で……」


 地図を見ながら第2フロアへの最短距離を辿って行く。

 

 「それで左にある道を進んですぐまた右の道に入って……

 これは一瞬でも地図から目を離したら分かんなくなるな」


 細かな線がいくつも書かれた地図は、あらゆる冒険者たちから寄せ集めた情報をもとに継ぎ足されたり、消されたりしているのでとても見づらい。

 慎重に指でなぞりながら道を進んでいく。


 「それで次の角を左に曲がると……」


 あれ?

 左に曲がると1本道になり、決して行き止まりではないはず。

 ちょっと地図から目が離せないが、視界の隅っこに行く手を塞ぐ影が見える。

 どこかで道を間違えたか?

 仕方ないので、指で押さえたままいったん地図から目を離し、前方を確認する。

 と……


 そこは行き止まりではなかった。

 私はちゃんと道を間違えずにいたのだ。

 だが、地図の道を辿ることに専念するあまり、周りが見えていなかった。警戒を怠っていた。


 私たちの行く手を塞いだもの、それは……


 「オバケ食虫植物……!?」

 

 「ピギャーーー!!!」


 頭に響く金切り声で鳴く、大人ほどの大きさがある食虫植物。

 パクパクと動く多肉性の口には、植物とは思えないほど鋭い歯が不規則に並んでいた。


 私は180度方向転換し、一目散に逃げだす。


 「ピギャッ、ピギャッ、ピギャーーー!!!」


 「ぎゃぁぁぁぁぁあ!来るなぁぁぁぁぁあ!」


 首だけ振り向くと、そのオバケ食虫植物はまるでエリマキトカゲが2足歩行で水面を駆け抜けるかのようにガニ股で、酸のヨダレを飛び散らせながら私を追ってくる。


 「足速ぇな!キモいよ!汚ぇよ!うわぁぁぁあ!」

 

 右、左、左、右、真ん中、右、右、左……


 ……



 「はぁ……はぁ……はぁ……

 な、なんとか振り切った……」


 道が入り組んでいてくれたおかげで助かった。

 こういう場所では逃げる方が有利だな。

 めちゃくちゃに曲がりまくれば追っかける方が見失う可能性が高いから。

 だが……


 「……ここ、どこだ?」


 めちゃくちゃに逃げ回った結果、私は地図から自分の位置を見失ってしまった。


 見たことあるような道なのは、どこもかしこも同じような道だからだろう。

 今、自分が迷宮の入り口から近いのか、第2フロアへ続く道に近いのか、それすらも分からない。

 こうなってしまっては、この第1フロアで地図は意味をなさない。


 「あー畜生、あのオバケ食虫植物め、いきなり追いかけてきやがってビックリしたじゃねぇか!

 おかげで道は見失うし。

 私は先を急ぐって言うのに!

 くそ、あいつ今度遭ったら私の……」


 そこまで言うと、私は急に不安な気持ちに襲われた。


 「……あれ、そういやぁ私、使えるスキルは『温度操作(2)』と『ドレインタッチ(2)』だけだ……

 『温度操作(2)』は、ミズタマの時は上手く即効性のある爆発攻撃に繋がったけど、あれは相手がミズタマだからだ。

 『ドレインタッチ(2)』で相手の魔力を吸うのは時間がかかるし、吸い尽くすまでにこっちが殺られちまう。

 つまり、どちらのスキルにおいても私の決定的な攻撃手段には成りえない……

 え、もしかして実は私って、まだ超ザコなんじゃ……」


 なぜだろう、なぜ今こんなに私は弱気になってきたのだろう。

 今更気がついたような口ぶりをしているが、分かっていたことじゃないか。

 まだまだ私は弱い。

 迷宮入りは私にはまだ早い。


 ミズタマを倒して、ドレインタッチを覚えて、良い気になって。


 ミズタマを倒したのも、ドレインタッチを覚えたのも、私の力じゃないのに。


 呪いの侵攻が恐ろしくて、勇気と偽って焦りを隠し、たったこれだけの準備で迷宮に挑もうなんて……



 「ど、どうしよう。このままじゃあ迷宮の最奥どころか、第1フロアでゲームオーバーだ……

 一旦戻るか?いや、でも道が……

 それに、こうしている間にも呪いの進行が……」


 昨日の夜、私を襲った胸の痛み。

 青白い月明かりが、まるでチクチクと針の雨を降らすかのように降り注いだあの夜。


 ヘルガーデンは天井がない。

 植物で編まれた壁が、高くそびえ立ち、登ろうにも上の方は結界が張ってあるそうだ。


 その壁を見上げると、空はもう日が沈み、あの忌々しい月が登ろうとしているのか、青い空が薄く光る。

 

 「くそ……また夜がやって来ちまう。

 今夜もまたあの痛みと呪いの進行を許すか、進行を食い止めるためにチュチュに……」


 ……あれ?


 「おい、チュチュ?」


 返事がない。


 ……まさか!?


 「チュチュ、いるなら返事しろ!チュチュ、チュチュ!チュチュ!!!……」


 


 ヘルガーデン第1フロアはまるで迷路。

 複雑に入り組んだ道は、いつモンスターに鉢合うか。

 いつ道を見失うか。

 いつ仲間を失うか。


 私はその全てに当てはまったのだが、それは始まりから間違えていたからかもしれない。


 勇気と軽率を履き違え、ヘルガーデンに乗り込んだ私は、この巨大な地獄の庭で誤った道を進んでいくことになってしまったのだった。



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