そろそろ××は卒業しようか。
【ユリ・リリス】
女嫌いの荒療治のため、女に異世界転生させられた元クズ男。
コレーに胸が大きくなる魔法をかけられ、Aカップに戻るために迷宮に住むロリモンスターにキスを。
呪いの進行を止めるためにはチュチュとキスをしなければならない。
そろそろ××も、この現実を受け入れなくてはなるまい。
一度整理しよう。
××はあのコレーとか言う鬼死女神によって日本での、男としての人生を強制終了させられ、今ここ、ローリアビテにロリとして異世界転生させられた。
そしてあの鬼死女神の言っていたことを信じるなら、あいつは××に呪いをかけた。
それはとても恐ろしい呪いで、今はこうしてロリ体型な××だが、奴の呪いによって、この体は日に日に女の醜い体型になるらしい。
1週間もすればAカップがGカップになるとか……
それだけは、もう1度死んでも回避したい!
というより、1週間以上放置したら化物になってしまう。
そのために、××はこのローリアビテに点在する迷宮を攻略し、その最奥部に住み着く、ロリっ娘モンスターとやらにキスしてAカップに戻らなければならない。
そうは言っても、ダンジョン攻略にはそれなりの時間がかかる。
そこでこいつ、あのネーミングセンスゼロの鬼死女神が名付けた水色女、リップ・チュチュの出番だ。
月の出る時間、といってもこちらの世界の月が出ている時間、1日1回、××とチュチュがキスすると、キスの程度によって呪いの侵食速度が遅くなるか止まるらしい。
このチュチュという水色女、歳は今の××と同じくらい、中学生くらいの見た目年齢。
水色の長い髪を2つに細く結っている。
タレ目の奥には、これまた水色の瞳が輝き、青白いと言っていいほど薄く、白い肌をしてやがる。
性格についてはまだ不明。
なにせ殆ど言葉を発しない。
あえて言うなら、無口クールキャラ。
チュチュはこの世界について少々知識があるらしく、その点についてはかなり助かる。
3次元女なんかと普通に口を利く義理はないのだが、こいつは例外。
まぁ、こいつもあの鬼死女神の迷惑旋盤に巻き込まれただけの不憫な奴だ。
大目に見てやろう。
悪いのは全て、あの鬼死女神だ!
そんなチュチュの助言により、今××たち二人はローリアビテの王都へ向かって歩いている。
この世界で××たちが迷宮攻略しながら生活するなら冒険者登録をしなくてはならない。
冒険者登録をすると依頼を受けられ、働きに応じた報酬がもらえる。
王都は武具や防具も豊富で、この世界最大級の冒険者登録所もある。
だがしかし、王都へ向かうにあたって1つ大きな問題がある。
「チュチュ、王都まであと、どれくらいで到着するんだ?」
「1週間」
……
うがぁぁぁぁぁあ!!!
1週間したら、××の体がエライ事になっちまうじゃねえか!!!
今はAカップ。だが、1週間もすればGカップにまでなってしまうとか。
……一刻を争う。
もたもたしている場合じゃない!!
だが……
「遠すぎるだろ王都ぉぉぉお!」
やっぱあの鬼死女神、ダメだ!
鬼畜にも程がある!
なんで王都からこんなに離れた何もない場所に××らを置いていくんだよ!
クソクソクソォォォオ!
……にしても、本当にこのワードに対する伏せ字、鬱陶しいなぁ。
そろそろ××も観念しなければなるまい……
ああー嫌だぁ、本当に嫌だー。
けど、これから他人と話すときに1人称が使えないと不便だし、そろそろ慣れておく必要があるだろう。
名前だって、こんな見た目だ。
ここは大人しくあの鬼死女神が付けた名前を使うとしよう。
「あー。あー。わ、わたし。私の名前はユリ・リリス。
うん、いい調子だ。私くらいなら言えるぞ。
冷静に考えてみると、別に男だって、正式の場では私って言うじゃねえか。
大人になったってことだ。
よし!この考え方で行こう!」
チュチュが突然独り言を始めた私をえらく驚きの目で見てくる。
ふん、なんだよ、なんか文句でもあんのか?ああん?
私は今、大人の階段を1歩踏み出したのだ!
邪魔をするな!
「リリス……」
なんだそんなに目を見開いて。
私を見るんじゃねぇ!
指も指すな!
人を指差してはいけませんって、もっと小さい頃、親に教えてもらわなかったのか?
全く、これだから3次元女は……
──ネチョン……
ん?なんだこりゃ?
うげっ、私の肩に、なんかネチャネチャした粘液が!
なにこれ?
「リリス、うしろ……」
「うしろ?」
うしろを振り返ると、さっきまで確実にいなかった、巨大カタツムリが俺の目の前にいた。
「えっ……」
なんじゃこりゃ……
目の前の、巨大カタツムリは、高さおよそ3メートルほどもあり、ツノからはダラダラと粘っこい粘液が滴り落ちている。
──トロリ……
何だ?こいつさっきまでいなかったよな?
いったいどこから湧いて出た!?
っていうか……
キモッ!
巨大カタツムリ、キモ!!!
私の肩に粘液垂らしてんじゃねえよ!
うげぇ、生臭っ!吐きそう……
だが、肩は粘液で濡れただけで、溶けたりはしていないから良かった。
一応、酸性粘液とかではないようだ。
けど、だからってこれ以上濡れたくない!
「に、逃げるぞ!」
こんな巨大カタツムリを目の前にして、一目散に逃げ出さない方がおかしい!
そもそも本当にカタツムリか?って話だし。
大きさ以外の見た目は本当にカタツムリそっくりだけど、実はすっげー凶暴で、牙を隠し持っているとかかも知れないし、大きな口を持っていて、私を丸呑みにしようとしてる。とかね、無くもない。ってか、異世界にいるならその可能性だって充分ありうるわけだ。
だから私は逃げる!
私が懸命な判断を下し、巨大カタツムリに背を向けた時、私の腕をチュチュが掴んで引き止めた。
「ちょ、お前離せ!3次元女め、触るんじゃねぇ!
ってか、食われたいのか?私は逃げる。
囮になりたいのならこの手を離して、早く囮になってくれぇ〜!」
うぉわ、こいつスゲー必死にしがみついてくる!
今は女の体とはいえ、もとは男!
こんな軟弱そうな色素薄い系の女なんて振り払って……
「これ、ワームツムリ!
こいつを利用すればもしかしたら、どこかの街にテレポーテーションできるかもしれない」
「な、なにぃぃぃい!?」
それは朗報だ!早く言えよ!
ここから王都まで、歩いて1週間はかかる。
しかもその旅の間に何が起こるかわからない。
ってか、そもそも食料も水も持っていない状態で1週間歩き続けるなんて自殺行為だ。
一刻を争う。
「それで、どうやったらテレポーテーションできるんだ?」
なんだ、ワームツムリだっけ?
そんな便利な生き物なら味方じゃねーか。
別に攻撃してくるわけでもなさそうだし。
そう思ったらなんだか可愛く見えてきたぞ、ワームツムリ!
そのトロトロネバネバ粘液体は、かなりいただけないが、3次元女よりずっと良い!
「ワームツムリの体は粘液の塊。
ワームツムリの体に飛び込んで、粘液の流れに乗ると殻の中心部にたどり着き、そこにあるワームホールから別の場所にテレポーテーションできる」
えっ……
「あ、あのぉー、私はちょっとそれ、やめておこうかな。
いやね、まだこの世界に来て2、3時間しか経っていないから自らの足で歩き知見を広げるべきと思うというか。
それに、テレポーテーションによりもっと王都から離れたりする可能性もあれば、案外王都は近いという可能性もあるわk…」
ってちょっとチュチュ、なに私の腕をまた勝手に掴んでいるのかな!?
3次元女は私に触れるの禁止!
……なんて、言っている暇もなく、
「行くよ」
粘液の海へダーイブ!!!
ぎょぇぇぇぇぇえ〜〜〜!!!!!