収入を得たので経済を回そう。
私とチュチュは、冒険者協同組合の支店に来ていた。
そこには、冒険者に必要と思われる杖やら剣やら服やらナンヤラが1度に揃う、冒険者のための店だ。
私達の目的は、まず服。
そして次に剣と盾。
「高い……」
私は服を見ていた。
冒険者ギルドに向かう途中で見かけた、幾何学模様の入った厚手のマントや銀の鎧、迷彩柄の軍服……どれも2万コレイほどする。
「たかが服に手持ちの20%も持っていかれてたまるか!
なんでこんなに高いんだよ!?
もういい!服は後回しだ。
先に剣と盾を見るぞ。
服なんて着られりゃ何でもいいんだ!」
怒りに感情を持っていかれ目的を見失い、私は感情の赴くままに剣がたくさん並ぶコーナーに足を運んだ。
ざっと見る限り、剣もピンキリだ。
1番高いものは、店頭に並んでおらず、商品名と値段のタグの横に“ご覧になる際は店員にお声がけください”の文字。
値段のゼロは数えるのも嫌になる。
安いものはそれこそ100均の包丁のようなものまである。
けれど、これは流石に迷宮攻略めざす冒険者には貧相な装備だ。
剣を使うのは、魔法剣士を生業としたチュチュだ。
チュチュは筋力も無いくせに剣を振るわなくてはいけない魔法剣士となった。
つまり、必要となる剣の要素は、まず軽さ。
どんなに良い剣を持たせても、重たくて振るえないでは宝の持ち腐れだ。
どこかに、軽くてそれなりで予算内の剣は転がっていないだろうか……
そんな時に目に飛び込んできた、“軽”の文字。
「軽量化魔術処方済みショートソード?」
それは、ショートソードの名の通り他のロングソードやハーフソードに比べると少し短め。
具体的にはおよそ60センチメートルほどの長さ。
これなら確かに他のものよりは軽いかもしれないが、何気なく手にとってみると重さおよそ1キロ未満というところか。
チュチュが振るうにはまだまだ重たい。
どこが魔術なのか分からないままショートソードを立て掛けなおそうとすると、いきなりチュチュが私の手の上から剣を握った。
「おいやめr……」
なんだ……?
剣が、いきなり軽く……
2人で持っているからとかではない。
チュチュは私の手の上に手を添えているだけだ。
しかし、チュチュが手を添えた途端、さっきまで感じていた重みがスッと消えた。
そしてチュチュの手から私の手を挟んでショートソードへ、何かが血管を通って流れ込んでいる感じがした。
「軽量化魔術、触れている者の魔力量に応じて物体を軽くする魔術」
チュチュが説明、おそらく【鑑定(3)】を発動させてそう言った。
なるほど。チュチュは筋力その他諸々こそないが、魔力量だけはアホみたいにある。
「魔力量に応じて軽くなる剣、最高じゃねぇか!
お前のためにあるような代物だ!」
私がショートソードから手を放し、チュチュに剣を構えさせる。
うん、なかなかサマになってるぞ。
「ちょっと振ってみろよ」
私が促すと、チュチュは両手で持った剣を掲げ、そしてそのままブンッと1フリ……
──グサッ
「あぅ……」
コイツ……振り下ろす勢いに手首が耐え切れてねぇ!
ってか、床に思いっきり刺さっちまった!
……う、薄暗いし誰も見てないからセーフだ、よな?
うん。セーフだ、セーフ。
「……ふんぬっ」
急いで剣を抜き、さやに収める。
そして、何事もなかったかのようにことを進める。
「チュチュ、軽量化魔術はお前のためにあるようなもんだ。
こんなに軽い剣はない。
だが、振り下ろす重力に勝てないとなると剣士を諦めるしかない」
「いやだ」
はやっ!
「じゃあ鍛えろ」
コテンっ、と小首を傾けるチュチュ。
いやいや、私そんな変なこと言いました?
「ムキムキになれとは言わねぇから。
せめて剣士なら剣を扱えるだけの資質を備えろって言ってるんだ」
「リリス、資質って生まれつきの才能のこと」
「うるせぇ。あとから才能付けたって分かりゃしねぇんだから、私の間違いを無かったことにするためにもお前が資質をつけろ」
まったく、融通の効かねぇやつだ。
国語能力のない私にそんな理屈は通用しないぜ!
しばらくチュチュは考えたあと、「分かった」と言った。
「よし。なら、買おう。
お前は魔力は多いから今でもそこそこの戦力にはなる。
だから、しっかり魔法剣士になって私のために働け」
軽量化魔術処方済みショートソードは、5万コレイ。
それ相応の値段というべきだろう。
私たちの手持ちの半分をかっさらっていく。
ならば、チュチュにもそれ相応の働きをしてもらわねば割に合わない。
だが不安だ。
ショートソードを両手で構えてフラフラとしている剣士なんて見たことが無い。
こいつが早く使いモノになってくんないと、私の胸は待ってくれないというのに……
「ええい、こうなったらポンメルも買っとけ。
これで重心が手元に来るから早く扱えるようになるはずだ。
うん、そうでないと困る」
ポンメルは西洋などの剣の柄の端に取り付けられる部品だ。
重心を調節できるので持ちやすくなったりする。
これがまた1万コレイもしやがる。
「リリス、優しい」
うっ、無表情なのに目だけキラキラさせやがって。
器用だな、おい。ってか、近い!
「うるせぇ、お前さっきからよく喋るな!」
他と比べたら、今のチュチュも無口キャラ極まっていることに変わりはないのだが、なんというか……チュチュのテンションが上がっているのが分かった。
相変わらず無表情で、目に見えた変化は無いのだが、私はなんとなくそう思ったのだ。
「そんなに剣士になりたかったのか?」
「ちがう」
「隠すなよ。職業決めするときも即決だったじゃねぇk……」
──グサッ
私の体、左半分がヒヤッとした感覚に襲われた。
さっきまでフラフラと剣を両手で持って遊んでいたチュチュが、重さに耐え切れなくなったのか、それともわざとなのか、私のすぐ横スレスレにまたも剣を突き立てた。
「……よ、よし。次は私の盾を見にいくぞ」




