丼の正体。
私の丼をかき込む手が止まった。
「え、爺さん今なんて?」
「たーんと食いな!」
「じゃなくてこの丼の名前に……」
「海の幸これでもか?」
「は、見た通り」
「プラスベストマッチ秘伝のタレ?」
「は、ウマそうだ」
「ホカホカ穀物はミズタマの核エネルギー丼すp……”!」
「そう、そこ!」
「ああん?」
首をひねる爺さん。
いや、ひねるのはこっちだから!
「なんなんだよ、“ミズタマの核エネルギー”って!?」
「そのまんまだよ。
あんたらの捕獲したミズタマの核エネルギーを利用して穀物をふっくら炊きあげてやったんだ。
おかげで火の魔石を買う手間が省けるぜ、ありがとな」
二カーッと小麦色の硬質な肌に浮き立つ白い歯を見せて礼を言われてもピンと来ない。
目をパチパチさせて頭に疑問符を浮かべる私にようやく気がついた爺さんは、再び大口を開けて笑うと、「これだよ」と言って、海の家の中へ入ると、すぐに戻ってきた。
その手には、小さな瓶を持っており、その瓶の中には手のひらサイズの透明な水饅頭。
「み、ミズタマ!?
まだ残ってたのか!」
宿敵の再登場に身構える。
「まあ落ち着いてよく見な。
コイツはミズタマの核エネルギーだけだ。攻撃はしてこねぇよ」
爺さんに言われて、恐る恐る瓶の中を凝視するが、透明水饅頭は攻撃してこなかった。
ホッと胸を撫で下ろしていると、濁り1つ無かった透明水饅頭の中心から、コロンとした赤色の玉が生まれた。
私が驚いてのけぞると、爺さんが入れ替わりで瓶の中をのぞき込んだ。
「おぉ、赤は火魔法元素だな
こうやって、ミズタマの核エネルギーは魔法元素を生み出す力を持っている。
さっき嬢ちゃんの穀物を炊くのに魔法元素を使い切ったから透明だったが、またすぐにカラフルな玉になり、再利用できる」
ミズタマの核エネルギーとはなんと便利なものなのだろうか。
爺さんの依頼はミズタマの“捕獲”だったのも頷ける。
まぁ、私たちはその“捕獲”を諦めてミズタマを自爆させてしまっt……
「えっ、爺さん。
そのミズタマの核エネルギーを私たちが捕獲したって?」
私たちは確かにミズタマを“捕獲”ではなく、“撃破”してしまっていた。
ミズタマの核エネルギーも蒸発し、1匹たりとも逃さなかった。
それこそ、跡形も無く。
それなのに、どうしてミズタマの核エネルギーが手元にあるというのだろうか?
「おうよ。そっちの水色の嬢ちゃんから受け取ったぜ」
何がなんだかわからない私は、説明を求めてチュチュに目を向ける。
「依頼は、捕獲だったから」
いや、私が説明して欲しかったのはそこじゃない。
「いつ捕獲してたんだよ?
ちっこいの捕まえてたのか?」
そう尋ねると、チュチュは首を横に振る。
「巨体ミズタマに飛び込んだ時、金属チェーンで切れ目を入れて、外部から強制的にレーザービームを放出させたから、噴射に勢いがついた反動でミズタマの内部が空っぽになった。
だから私がミズタマの核まで到達できたから捕獲しておいた」
「お、おぅ……」
いつも無口なチュチュが多くを語るときはだいたい説明だ。
そしてその説明は、ほとんど私には理解できない。
「儂はそん時ちょーど見てたんだけどよ、ありゃすげぇな。
もし金属チェーンで切れ目を海側に入れてなきゃ今ごろ桃色の嬢ちゃんも蒸発しちまってたぜ」
ワハハハっと、またも豪快に爺さんは笑っているが、私は笑えない。
蒸発なんて恐ろしい事言うなよ。
「とまあ、そんなわけで依頼は完璧だったぜ、ありがとよ。
これ、少ねぇが受け取ってくれ」
そう言って爺さんが渡してきたのは麻袋。
中を見ると、お金がたくさん。おそらく10万コレイある。
例の依頼書にあった金額、いわゆる報酬金ってやつだ。
初めて自分で稼いだお金。
前世でバイトなどしたことが無かった私。
そんなだから、これは何だか新鮮であり、一方で自分は本当にこんな大金をもらっていいのか、それだけの報酬金を貰うに値する働きをしたのか、不安にもなった。
だが、麻袋の重みが傷口に響き、これは間違いなく自分たちが身をもって稼いだお金だと気がつくと、実感とともに達成感や喜びと言った感情が湧いてきた。
それに……
「はやくその金でちゃんとした服買ってきな」
その一言で、私の迷いは綺麗サッパリ消え去り、赤面した顔を隠すために丼を犬食いした。




