それは、どんな死を意味する言葉なの?
「なにしてるの!?」
シヴァが叫んだ。私も、ショシャナットの行動に息を呑む。
石の槍でカッさばいたショシャナットの背中からは血が出ない。ただ、ふかく背中に傷がつくだけ。
──ん? 背中?
私は思い出した。風呂場でショシャナットの裸を見た時に、ショシャナットの背中にあったものを。
「さあ、これで準備は整ったよ。あとは……」
ショシャナットの背中には、魔法文字で“ショシャナット”と、名前が彫ってあった。
ショシャナットはそれを消したのだ。
私がやろうとしていた、ショシャナットを壊す方法。それをショシャナットは、自らその儀式を行おうとしているのだ。
「ここに書くべき魔法文字を知っているのはチュチュかな?」
次にショシャナットはチュチュに向き直る。
私がチュチュに頼んだ、魔法文字の検索。
「シヴァ。この石ナイフを持って。チュチュに文字を教えてもらって」
ショシャナットから異様な雰囲気を感じたシヴァは嫌な予感がしたのだろう。何かを恐るようにゆっくりと首を振るが、ショシャナットは構わず、シヴァの手に石ナイフを握らせる。
そして、シヴァをチュチュのもとへ誘導し、へたり込むチュチュの手にシヴァの手をとらせた。
「チュチュたちが何の言葉を選んでくれたかは知らないけれど、壁の魔法文字によると、あたしは、あたしの背中に彫られた名前を消して、“死を意味する言葉”を新しく彫ると死ぬみたい」
そう。ショシャナットの破壊方法は、なんでもいいからショシャナットの背中に“死を意味する言葉”を彫ること。
それは、“永眠”でも、“溺死”でも、“病死”でも、“土に還る”でも、死を意味する言葉ならなんだっていい。もっと簡単に、“死”と書いてもいいのだろう。
「さあ! 君たちは、あたしになんて名前をつけてくれるの?」
シャローム地下都市のゴーレム人形を生み出した二人の冒険者がつけた名前は、「ショシャナット」。
これは、スズランを意味する。
平穏、幸せを意味する花だ。
そして、ショシャナットを殺す冒険者となる私たちが彼女に与える新名は──
ガリっ、ガリっ、と土器を削る音がする。
シヴァは泣きながらずっと首を振っている。けれど、しっかりと石ナイフを持っている。
チュチュはそんなシヴァの手を包み込むようにして、ゆっくりと文字を彫っていく。
「“シュリギット”。これが、ショシャナットの新しい名前」
「シュリギット……? それは、どんな死を意味する言葉なの?」
聞きなれない単語に、背中に文字を刻まれながら首を傾げる。
なぜシュリギットが死を意味する言葉にあたるのか、分かりかねるチュチュは、私に目をやる。
「ああ、それはな──」
私は、前世で花屋の親父から得た知識からこの花を選んだ。
シュリギットの意味を、なぜその花が死を意味するのかを、ちゃんと説明してやらなくちゃいけない。




