つまりこれは、ただの殺し合いだ。
塔の上の方はシヴァに任せた。
次は、チュチュとショシャナットだ。
「チュチュ!」
パワーブースターを履き、ショシャナットが盛り上げる土柱を蹴り倒すチュチュ。
ショートソードを横薙ぎに振り、ショシャナットに襲いかかる形相はどこか狂気に満ちていた。
「壊す……チュチュが……壊さなくちゃ……」
よく聞くと、チュチュはそんなことを言っていた。
「ったく、あいつにも“病み”スキルがあったのか? ああいう病み方はシヴァのよりタチが悪い!」
とっとと止めさせなきゃな。
私は盾を構えて、飛び出した。
魔力が底をついた私は今、魔法を使うことができない。
それに、チュチュだってそんなにいま魔力を持ってないはずだ。
いつまでパワーブースターが保てるか分からない。
それに、あいつの脚はまだ完治していない。パワーブースターで無理やりギプスのように固定しているだけだ。
……あいつ、よく戦ってられるな。
「あれ? リリスも来たんだね」
飄々としたショシャナットの声音も、チュチュとの戦闘で表情と合っていない。
私にも攻撃を仕掛けてきた土柱をかわし、チュチュのもとへ。
かっさらうようにして、ショシャナットから距離を取る。
「チュチュ!」
「……リリス」
サッと手が冷たくなった。
近くで見ると、チュチュは想像以上にボロボロだった。
無理やり固定している脚は、炎症を悪化させて紫色に腫れ上がり、その上からさらに血の赤が流れていた。
「ごめんね、リリス。チュチュ、殺らなくちゃと思って……けどまだできてない……」
「んなこといいから! お前はもう休んでろ!」
なにが“殺らなくちゃ”だ……
こいつ、何をこんなに……?
「だめ……チュチュも殺らなくちゃ……リリス、来たなら、リリスも、ショシャナットを、殺るよ」
「“殺るよ”って、お前なぁ……」
やるよ、の文字が“殺”を意味していることが伝わってくる。
真っ直ぐショシャナットを見据える目。どうやら決意は固いようだ。
私がどうこうできることでは無いと悟るしかない。
「分かった。チュチュ、あと魔力はどれだけ残ってる?」
チュチュは自分の冒険者カードをチラッと見て、
「20」
と言った。
「20か、ギリギリだな。けど0の私よりはいい。よし、作戦だ。私がショシャナットを引きつけるから、お前はその間に土柱に“雷鳴”を仕掛けておけ」
チュチュの雷系統スキル、“雷鳴(1)”。
これは注ぎ込んだ魔力のぶんだけ威力が増す。
20でどれだけやれるか分かんねぇし、パワーブースターの分も魔力は減るし、一発勝負だが、やるしかない。
「チュチュ、リリス、どこにいるの? あたしを壊すんでしょ? あたしは壊されたくないから、二人を始末しなくちゃ夜も眠れないよ。あっ、ゴーレム人形は眠らなくても大丈夫なんだけどねっ」
呑気で陽気なショシャナットの口調は、こうやって聞くと、猟奇的な奇妙さで背筋が凍った。
くっそ、ウシって草食動物だろーが。狩られる側から狩る側へ、被食者の逆襲ってか? まるでホラーだな。
「よし、行くぞ」
狩る側vs狩る側。
つまりこれは、ただの殺し合いだ。




