あんの攻めの姿勢・迷惑千万・軟弱女ぁぁあ!!
急げ、急げ、急げ!
チュチュは、私が与えてしまったヒントをもとに、ショシャナットが塔の階段に魔法を掛けて隠し続けていた魔法文字の続きを解読した。
それは、ショシャナットの破壊方法。
私が私の過去の記憶から導き出し、チュチュに与えたヒントは二つ。
一つ目は、花屋を経営していた私の親父から昔聞いた話。
ショシャナットがスズランを意味し、その名を与えた冒険者達がスズランの花言葉である“平穏”を願いに込めた。
そして私も冒険者も、そのスズランの花言葉が、“平穏の終わり”を裏で意味することを知っている。
ここからは推測になるが、多分冒険者達も知っていた。スズランによく似た花に、私とチュチュがシャロームの舞でゴーレム人形に与えた花があり、その花が意味する恐ろしい意味が、ショシャナットを破壊する鍵となることを。
二つ目は、ゲームばかりしていたあの頃、ラスボスのゴーレムがなかなか倒せなくて、ゴーレムについてネットで調べていた時に偶然見かけて何となく覚えていた知識。
それは、ゴーレム人形の作り方と深く関わりがある。
ゴーレム人形に命を吹き込む時、その体にゴーレム人形の名前を書いた羊皮紙を貼り付けるのだという。
私は脱衣所でショシャナットの背中を見てしまった時に、ショシャナットの背中に魔法文字で“ショシャナット”と、名前が刻まれていたのを目にした。
あんなにもショシャナットが裸を見られたくなかったのは、背中に刻まれた、ゴーレムの証を見られたくなかったからだろう。
そして肝心の破壊方法だが、私がプレーしたゲームでは、その羊皮紙に“死のタリスマン”というアイテムを上から貼り付けてゴーレムを倒すという攻略法だった。
この二つのことを私は導き出し、チュチュにやってもらいたかったのは、“死のタリスマン”に当たる魔法文字。つまり、“ショシャナット”に代わる、死を意味する名前。そのスペルさえ“鑑定”を使って解いてくれれば良かったのだ。
なのに、なのに!!!
あんの攻めの姿勢・迷惑千万・軟弱女ぁぁあ!!
さっさと答えを導き出したまではいいが、大人しく待ってられねぇのか!?
答案用紙だけ残して、勝手に行っちまいやがった!
「リリス、どういうことですか? これがショシャナットを殺す魔法? チュチュさんは、どこへ行ったというのですか?」
多分、クジャトは何も知らないのだろう。無口なチュチュの事だからな、ちゃんと説明しているとは思えねぇ。
私も説明してやりたいところだが、今は時間が無い。
「とりあえず、チュチュが危ない。今ショシャナットはシヴァと一緒にいて、クジャナが見張っているんだよな?」
「ええ、そうです」
「だったらクジャナ達も危ねぇ。すまんクジャト、チュチュのせいでお前の姉がピンチだ。チュチュは、ショシャナットに戦いを挑もうと乗り込んだんだよ」
「ええっ!? チュチュさんお一人でですか!? それは早く止めないと!」
その時、シャローム地下都市の地面が大きく揺れた。
これは、地震の揺れじゃない。まさか!!
窓の外を見ると、れいの塔の近くで土埃か高く舞っている。
「やべぇ。急ぐぞ、クジャト!」
「でしたらリリス、僕の背中に乗って。そのほうが早いです!」
言うが早いか、クジャトはひょいと私の首根っこを嘴でくわえて背中に乗せると、まるで気流の波に乗るように、魔術道具の天井スレスレでショシャナットのもとへ向かった。




