ショシャナット戦、させない。
なぜショシャナットが塔の外にいられるのか?
その疑問の答えを推測した私は、ある結論に辿り着いた。嫌な汗が流れる。
「……いや、待て。そんな、だってそれは心の無いゴーレム人形にしか……!!」
嫌な汗が私を挟み込む岩石に滴り落ちる。
「ねぇ、シヴァ。あたしとシヴァは確かに少し似ている。じゃあシヴァはどうやってその部屋から出たの?」
「えっと、それは……」
シヴァが私とチュチュの方を見る。
「リリスとチュチュが、連れ出してくれたんだ」
シヴァは、少しだけ、ほんの少しだけ微笑んだ気がした。
チュチュ同様、笑った顔を見せたことがないシヴァ。今のが本当に、笑ったとは言いきれないが、少なくとも私が見てきたシヴァの表情の中で、一番優しく温かなものだった。
「そっか。じゃあ、あたしとは違うね」
「え?」
「シヴァはその部屋に何も残していないから、もうその部屋に囚われなくてもいいんだよ。あたしは、あの子がいるからダメだけど」
「あの子? あの子ってだr……?」
スっとシヴァの尻すぼみの言葉と同じように目が閉じた。
「シヴァ! 何をしたショシャナット!!?」
「大丈夫だよ。サル爺さんと同じように、今日の記憶を取ったから眠っちゃっただけ」
その言葉にハッとして、サル爺の方に首を捻ると、はるか向こうで鼻ちょうちんを膨らませたり縮めたりしながら眠っているのが見えた。
「さて。あたしもちょっと喋りすぎたし、魔法文字の内容も全部、忘れてもらうよ。リリス、チュチュ」
シヴァを地面に置き、私に歩み寄るショシャナット。
まずい。ゴーレム人形であるショシャナットには、記憶を吸い取る力がある。
全部、忘れちまうのか!?
「させない」
ショートソードが、岩石をメリメリと砕く音がした。
テコの原理を使って、チュチュが少し広がった岩の隙間から転がり出ると、再びショートソードを横に大きく振る。
「くっ……!」
突然のことにショシャナットも反応が少し遅れ、頭を狙ったチュチュの矛先はショシャナットの髪飾りをプツンと切った。
乳白色の団子ヘアが紐解かれ、長い髪がうねると同時に、魔法文字に記してあった浄化力を持つクリスタル──レムリアンシードの角が顕になった。




