塔の中のウシ型ゴーレム人形、
「ショシャナットが、ゴーレム人形?」
私が読み上げた一行は、ここにいる一同に大きなショックを与えた。
特に、シヴァは病みワードこそ繰り返さなかったが、顔が真っ青だった。
「信じられん……あのショシャナットが、ただの土人形とな?」
長年ショシャナットを見てきたサル爺も呆然としてしまっている。
「う、うそだよね? だって、ゴーレム人形さんはこの塔の中に居るんだもん、お外にいるわけ無いんだもん……」
それもそうだ。ゴーレム人形の能力についてはまだ分かっていない。そもそもなぜ、この塔がゴーレム人形には必要だったのだろうか?
「チュチュ、続きを読んでくれ」
私は魔法文字解読文書をチュチュに回す。
「“ショシャナットは、市民ノ“負の感情”を吸い取った。ダガ、“負の感情”というノハ、際限なく、マタ時に爆発的に発生スル。だからショシャナットの小さなカラダでは市民の争いの火種を全て回収しきれない”」
「“火種を回収しきれなければ、必ズ争いが起こリ、広がる。そうしたナラバ、この子はナゼ生まれてきたのだろうか? そんな事になってはイケナイ”」
「“そこで、我々は考えタ。ショシャナットが役割を果たせるよう、この塔を建てた。この塔が、集めた“負の感情”のタンクとなって溢れた“負の感情”をストックし、眠ル事の無いショシャナットは“負の感情”の供給が少ない時にそれを浄化スルことが出来るという仕組みデアル。”」
「“ココロの無いゴーレム人形であるショシャナットだからこそ果たせるこの役目。シャローム地下都市の平和のシンボルと成りて永遠にこの塔と共にアル。出ルことは許されない。ナゼナラ、この塔とショシャナットの力は、一体化させなければ“負の感情”が漏れ出てしまうカラだ。我々の最高傑作、塔の中のウシ型ゴーレム人形、ショシャナットの完成ダ”」
「こ、こんなの違うよ!」
珍しくシヴァが病みではなく、怒りの声をあげた。
「ショシャナットに心が無いなんて、そんなことないよ!」
「シヴァよ、ちと落ち着け。この文書を読む限り、ショシャナットはゴーレム人形。その作り手である冒険者達がショシャナットには心が無いと言うておるのじゃ。たとえ彼女に心があるように見えても、それは見せかけのもの。虚実に感情を揺さぶられてはならぬ」
サル爺の言う通りだ。私達は今、事実を受け止めなければならない。自己満足の考えに囚われてはいけない。
ショシャナットに心が無いなんて、思いたくないのはシヴァだけじゃない。
「つづき、読む」
「お、おう……」
マイペースなチュチュはさっさと魔法文字解読文書の続きを読みはじめる。
「“我々はこの子にショシャナット、つまりスズランと名付けタ。スズランは、平穏な日々を意味すると同時に、そのような日々に終わりが訪れるコトを意味スル”」
解読文書がシヴァに回されるが、シヴァはプイッとそっぽを向いてそれを拒否した。
仕方がないので、チュチュはシヴァを飛ばしてサル爺に解読文書を回した。
「“ショシャナットがもたらす、この作られた平穏な日々は、長くは続かないダロウ。ケモノ族達は真の平和を自ら勝ち取るベキだからだ”」
「“だが、ショシャナットは設計上、偽りの平和を壊すことを良シとしない”」
「“だからモシ、ケモノ族達が、この平和が偽りだと気づき、真の平和を願った時、この文字を解読シタ者に我々はショシャナットの、破壊を託すコトにする”」
ショシャナットの……破壊?
それはつまり、ショシャナットを殺すということ……?




