クジャクってどんなイメージです?
クジャナの部屋に残されたクジャトと私。シャロームの舞で敵対していた姉弟の、姉の部屋で弟と一緒にいるだなんて変な感じだ。
そんな気まずい雰囲気の中、クジャトが先に口を開いた。
「はは……ごめんよリリス。クジャナに付き合わせてしまいました」
「んー、まぁお前が謝るようなことでもないしさ」
苦笑いを交わす私とクジャト。
そのクジャトの、クジャクの象徴である羽の一部が、少し折れ曲がっていることにその時初めて気がついた。
昨日のシャロームの舞では、こんな折れ曲がりは無かったはずだが。
「クジャト、その羽どうしたんだ?」
私が指摘すると、クジャトはこれまた違った種類の苦笑を浮かべた。
「ああ、先日ちょっとですね……」
「ふーん」
あんまり聞かれたくなさそうだし、ここは話を変えよう。
「にしても驚いた。クジャナの事だから、私はてっきりもっとケバケバにさせられちまうと身構えてたんだが案外そうでもなかった」
クジャナ自身のファッションは、上から下までキラキラした宝飾品ばかり。
頭に乗せた、冠。艶やか過ぎるドレスは、クジャクらしいと言えばクジャクらしいのだが、派手過ぎる。睫毛にはビーズが付いているし、化粧も濃い。
それに対してクジャナが私着せたドレスは華やかながらも清楚なもの。メイクやヘアアレンジだって控え目で、世間一般な感覚で好感の持てるもの。
「クジャナって、本当はセンスいいんだな」
「そりゃあクジャナはデザイナーを目指していましたからね。昔から美しさに敏感でした」
クジャトは、まるで自分が褒められたように誇らしげに胸を張った。すると、クジャトの見事なクジャクの羽が開花した。
「へぇー。じゃあ何で自分はああなっちまってるんだよ? ハイセンス過ぎて度を越しているって感じでも無さそうだが」
何気なく言った私の一言が、今度はクジャトの表情に影を差し、羽が萎んだ。
「リリスはクジャクってどんなイメージです?」
「クジャク? クジャクと言えば、やっぱクジャトみたいなカラフルな羽だな。青藍色の体に、翠系の光沢がある模様がたくさん付いてる扇形のそれだ」
「そうですよね。けれど、それは男のインドクジャクに限った話です。女の子のクジャクは、男とは違い、灰色がかった茶色なんです」
灰色がかった茶色?
婆ちゃんの着物によく使われる、御召茶色か。それは……
「地味だな」
「随分ハッキリ言いますね」
「……悪ぃ」
思ったことはつい口に出てしまう。私の悪い癖だ。
「でも、その通りなんです。クジャナは幼少期、それで随分とからかわれました」
「え? けど、クジャクの女はみんなそうなんだろ? それぞれの特徴があるケモノ族にとって、身体的特徴の違いなんて当たり前の事なんじゃねぇのか?」
「ええそうです。けれど、クジャナは将来の夢がデザイナー。それがいけなかったんです」
「どういうことだ?」
「デザイナーは華やかな職だから地味なクジャナには似合わない。なれっこないと、決めつけられてしまったのです。クジャナは深く傷つき、以来自分を飾り立てることに必死になってしまい、素の自分を殺すようにメイクをし、髪をいじり、服を選ぶようになりました……」
弟としては、そんな姉を見てきて、どういう心境なのだろうか?
クジャトには、クジャナがどう映っているのだろうか?
夢を否定され、壊れていく哀れな姉を悲観するように伏し目がちに溜息をつくクジャト。
他人の私から見れば、周りのヤツが酷い。そして、クジャナ自身にスポットを当てて見ればそれは、
「なるほどな。クジャナはまだデザイナーになる事を諦めていないって事か」
「え?」
「だってそうだろ? デザイナーになりたくて自分を変えようと努力してるんだから」
女は弱いなんて世間一般様に広まっちまっている考えは私には通用しない。女なんて、放っておいても強く生きる、それが私の持論。
「お前の姉ちゃん、強いな」
自分の夢を笑う奴なんて無視すればいい、なんて無神経なことは言わない。
言われたことに傷つき、悩むのは当たり前。そのあと何を考え、そこからどうするかで夢への道は決まる。
他人はそれを見守り、信じ、支える事しか出来ないのだ。
だって、運命は自分の中にあるのだから。光る原石は己の力で輝かなくてはならないのだから。
その時、バタンっ! と、部屋の扉が開いて着替えとメイクを済ませたクジャナが戻って来た。
「お待たせですわー!」
「ク、クジャナ……今日はまた一段と……」
ラメの入ったマスカラをタップリと塗られた自睫毛だか、付け睫だかよく分からないものをバッサバッサさせて、グロスをテカテカさせた唇を下弦の月の形にして、宝石がそのまま付いた重そうなドレスで一回転してみせるクジャナ。動くたび揺れる頭飾りがカランカランと音を立てる。
「派手だな」
こんな派手な格好が平気でできてしまう、やっぱり女は図太くて、強すぎる生き物だ。
MerryX'mas☆彡.。




