(。_。`)コク
「キャー♡♡♡ リリス可愛いですわ! こっち向いてくださいな! ああ違いますわ、こっちですわ! それともっと笑ってくださいまし!」
無理やり首を正面にひん曲げられ、膨らませていたほっぺたも潰された私は、眉間に皺を寄せた。
「次はこっちのドレスなんてどうかしら? リリスの髪の色にはこちらの方が映えますわ!」
ケモノ族ってのは、やっぱり身体能力がニンゲンよりも高い。
ショシャナットがそうであるように、クジャナも物凄く力が強くて、太刀打ち出来なかった私は、クジャナのいい着せ替え人形と成り果てていた。
そうだ、私はただの人形。人形に感情は必要ない。今はただ、この姉の暴挙に理由を求めず、ただ無心でいよう。モデルはチュチュのポーカーフェイス。(・_・)
「リリス、私は髪の毛を解かしますから、ちょっとご自分で口紅を塗れるかしら?」
(。_。`)コク
「塗りすぎはダメですわよ? ほんのり色付くくらいが可愛いですわ」
(。_。`)コク
「リリスの髪は本当に綺麗ですわね。あまりたくさん髪飾りを付けては、この綺麗な髪の邪魔になりますから、すこし編んだ所に飾りを付けるくらいにいたしましょう」
(。_。`)コク
「リリス、口紅は引けまして?
って、 ああもう! 何をなさっているの! 口紅はそんなに強く口に押しつけないっ! それと一直線に引きすぎです。ジンベイザメも驚きですわ!」
ぐにゅぐにゅと、湿った布で私が引いた口紅のラインを拭い取るクジャナ。
「それが化粧落としか! 寄越せぇ!!」
「わわっ! こ、こらリリス! 返しなさい!」
へへっ、化粧落としが手に入ればこっちのもんだ。
化粧落としなんて使った事ねぇが、要するにこの布で顔を擦れば化粧が落ちるんだろ?
「リリス! そんなにデタラメに拭いてはマスカラが……!」
化粧落としの布で顔を大胆に拭った私の顔を見て、クジャナが固まった。かと思うと、
「……プッ!」
吹いた。
「おい、何笑ってんだよ! 化粧した顔よりはマシだろう?」
と、手元にあった手鏡を顔の前に持っていく。そして、そこに映っていたのは、
「だ、だってリリス……それではパンダのケモノ族そっくりですわ!」
マスカラが目の周りに丸く伸び、白い肌とのコントラストが見事なパンダだった。
って、なんじゃこりゃーーーっ!!!
「ほーら、お貸しなさい。初めからやり直しですわ」
「やり直さなくていい! そのまま落としてくれ!!」
「嫌よ。メイク直しするからお顔を貸しなさい。でないとその顔のままドレスで市中引き回しの刑罰ですわよ?」
ここには格好の獲物を逃がすまいとする、肉食系女がいた。
「ライオンー、トラー、チーター、ヒョウー、ハイエナー、クマー、サメー、ワシー、タカー、シロクマー、ワニー、ピラニアー、オオカミー……」
思いつく限りの肉食動物の名前を挙げている間、クジャナにされたい放題の私。
いったいどんなケバケバモンスターにされている事やら……
「できましたわ。入っていいわよ、クジャト」
外で待たせてあったクジャトを呼びながら、クジャナは私の前に等身大鏡を立て直す。
はぁ……クジャナのコーディネートじゃあ、きっと紅白歌合戦の大御所がステージの一部になったみてぇな格好にさせられているんだろうな……
目がチカチカする程のドレスに、ソフトクリームみてぇな頭にさせられ、誰だかわからなくなるくらい濃いメイクでギャル化させられているんだろうな……
「リリス、とっても綺麗ですわ」
「えっ……?」
鏡を見て、驚いた。
それは決して、どこのミラーボールに手足が生えたのか? とか思ったからではない。
「流石はクジャナ。リリスの良さが引き立っています」
白を基調として、淡いピンク色の刺繍やレースが上品に施されたドレス。
髪はほとんど手を加えず、サイドを少し編んで髪飾りを付けているだけ。
メイクは、クジャナのバサバサ付け睫メイクとは相反するナチュラルメイク。
これがSLGのハッピーエンドシーンだと言われても納得できる、華やかさとゴージャスさが雰囲気にとどまって邪魔をしてない、綺麗な女の子がそこにはいt……
って、違う違う!!
あっぶねぇ……、予想を裏切られ過ぎて良からぬ方向へとトランスしちまうところだった……
私は男。私は男! こんな格好をするべきではない男だ!
「じゃあクジャト、私もまた着替えてくるからその間リリスが逃げ出さないように見張っていてちょうだいね」
誰がこんな格好のまま逃げ出せるってんだ。
「分かりました。けど、程々にしてくださいね」
バサっと、風が起こりそうなほど重たい片方のまつ毛でウインクして、クジャナは部屋を出ていった。
ゴチャゴチャと宝石がそこらじゅうに転がっているクジャナの部屋には、“ おとこ”二人が残された。




