ちゃんと飲み込んでからお喋りなさいっ!
事実と比べながら、もう一度だけ頭の中を整理する。
私が昨日冒険者カードを見た時、確かにドレインタッチのスキレベは2だった。
それが今日突然、スキレベ7にまで跳ね上がってやがる。
「うーん、何度見ても7だよな? またカードがバグったのか? このカードすぐにバグるからなぁ。けど、ドレインタッチ逆バージョンが使えるってことはやっぱりカード情報は合っているってことなのか? うーん…………んんっ!?」
冒険者カードを眺めていると、私はもう一つ、重大な変化に気がついてしまった。
それを確認するべく、恐る恐る自分の胸に手を持っていく。
フニっ、と柔らかな感触。添えている手が、より丸みを帯びたラインを描く。
昨日から今日の自分の体だから、その変化がよくわかる。
「バスト……C!?」
まて。まてまてまて!!
えっ? 昨日までBだったよな??
その前のサイズアップは昨日。
ショシャナットと舞台裏で審査員の買収を悟った時だ。めちゃくちゃ痛かったからよく覚えている。
えっ、そんなに早くCになるか!?
「おおお落ち着くんだわたひ。あ、噛んだ。落ち着けわたし!!
そうだ、きっと踊りまくってたから疲れが溜まっているんだ。きっとそうだ。そうに違いない、そうであってくれ!
……よしっ、気晴らしがてら、久しぶりに市場でも散策してみるとするか」
工事現場を離れ、私は市場へと足を運んだ。
相変わらず賑やかな市場。
みずみずしい青物の屋台や、こんがり焼けた小麦の食べ物の屋台、カラフルな布地を売っている屋台に、金物店まである。
「リリスさんじゃないか。調子はどうだい?」
シャロームの舞で優勝したからか、私はすっかり有名人になっていた。
ってか、いま声をかけてきたのは、私達にシャローム地下都市の名物、ピタポケットを食わしてくれたタヌキの店主だった。
「ああ、久しぶりだな」
そこへ、店主の奥さんらしきケモノ族が顔を出す。
「あれあれ。またちょっと腰周りが細くなったんじゃない? ちゃんと食べてる?」
私の腰が細く見えるのは、ただ痩せてしまっただけなのか、それとも胸との相対比率でそう見えてしまっているのか……前者であると願おう。
「はいこれ。しっかり食べな」
「え?」
タヌキの奥さんが手渡してくれたのは、またしてもピタポケットだった。
「い、いいですいいです。私お金持ってないし、次買う時はちゃんとお金を払うって言ったし……」
「それはあたしの夫とのやり取りだろ? あたしはそれを知らないからねぇ」
「でも……」
「んじゃこれはあたしからの優勝賞品副賞ってことで。あんたたちの踊り、よかったよ」
なんとまたしても無料で店の商品を頂くことになってしまったが、そう言ってもらえるのならお言葉に甘えよう。
まったく、ケモノ族の人の良さには舌を巻くほどだ。
ホカホカのパン生地の中に詰め込まれた、野菜炒めと肉にかぶりつく。
「うんめぇー!」
「美味しそうに食べてくれるし、あたしらも嬉しいよ」
私が店の前でピタポケットをほおばっていると、ワラワラとタヌキの屋台に行列が出来始めた。
「リリスちゃーん」
行列に並んでいるケモノ族の何人かが、私の名前を呼びながら手を振っている。
何がしたいのかよく分かんねぇが、取り敢えず今はピタポケットがウマいからテキトーに手を振り返しておこう。
むしゃむしゃ うめぇ♪
「いやぁー、いい宣伝効果だねぇ。ありがとさん。あたしもちょっと夫を手伝ってくるから、またいつでも食べに来ておくれ」
タヌキの奥さんが、急に忙しそうになった主人を手伝いに屋台の中へと戻っていった。
私はちょうど、ピタポケットに思いっきり食いついていたところだったから、奥さんを目で追うだけしかできなかった。
そして奥さんと代わるようにして私の視線の反対側から現れたのは、
「お、おいあれ……」
行列がザワついた。
なんだ?
今度は行列の視線の先を追うように、私の背後に視線を持っていくと、そこには派手な装飾品をこれでもか! と付けまくった二匹のトリ頭。
「ちょっとよろしいですか?」
「ふへ?」
「まったく、こんなに御下品に安物グルメを食い散らかすロリっ子に負けてしまっただなんて、信じられませんわ」
私の前に現れたのは、シャロームの舞の審査員たちを買収した、シャロームの舞実行委員会委員長の孫、クジャク姉弟だった。
「ほはへはひっ! はふへほほひ!?!?」
「ちゃんと飲み込んでからお喋りなさいっ!」




