ドレインタッチ(7)?
ドレインタッチで魔力元素から私の体で魔力へ。そのフローをヒールで高速化。溜まった魔力をドレインタッチ逆バージョンでチュチュへ。そしてその魔力を使って鑑定をして魔法文字を解読。チュチュの読み上げた言葉はサル爺さんが読める文字に書き起こしてくれた。
このサイクルを繰り返し、そして遂に……
「ここまでじゃな」
魔法文字読破直前まで差し迫った所でサル爺さんがストップをかけた。
というのも、ここから先へ階段を登ろうとすれば、足元が平になり、真っ逆さまに転げ落ちてしまうからだ。
「うーん、ここまで来たのにあと一歩の所で止めなくちゃならないのはもどかしいが、取り敢えずやれる所までやった。サル爺さん、協力サンキューな」
歳をとって階段が上れないと言っていたサル爺さんも、長年この高い塔の管理者としてやってきた身としてはやはり、この魔法文字の解読に尽力を尽くしたかったらしく、少し無理をしてでも協力を申し出てくれた。
「いやいや、ワシの方から頼んだ事ゆえ、ワシより先に礼を言わざるべし。ありがとう、好奇心旺盛な若者たちよ」
「んじゃ、さっそくここで解読した魔法文字を通しで読み上げてみようぜ。随分長いが、四人で回し読みすれば何とかなるだろう。んじゃ、私から読むぞー」
─────────
翌日から私は朝早く、シャローム地下都市の最果てを目指して出かけていた。
最果てと言っても、掘った穴の範囲内。つまりただの土壁だ。
幸い私の泊まっている所から最果てまではそう遠くなかった。
最果ての壁にたどり着き、少し周りを見回すと、まだ魔術道具が設置されていない素の天井の隣、魔術道具の天井から魔力元素が吹き出しているのが見えた。
「やっぱり魔力元素を通す管が剥き出しになってる」
ショシャナットの話だと、この天井を光らせるのに使われるのは光の魔力元素のみだが、ここに流れているのは全種魔力元素。
ここにはもちろん、闇の魔力元素も含まれる。
「久々に発動させるな。カレンとアーティが懐かしいぜ」
私は漏れ出した空気圧に手を触れさせ、頭の中で自分の中に魔力元素が流れ込んで来るのをイメージする。
「“彼のもつもの 分かちたまえ 吸収せよ 彼のものは我のもの”」
私の持つ闇系統の魔法スキル、ドレインタッチ!
「おおっ、おおお!!」
大成功だ。
ダークエルフ、カレンに初めてドレインタッチを習い、習得した時のあの感覚が蘇る。
「やっぱり、ここに触れていれば魔法が使える。よし、もう一回!」
なぜ私がドレインタッチを何度も発動させているのか。
それは、ドレインタッチのレベル上げのためだ。
各冒険者には Lv があり、その冒険者の持つスキルにもレベルが別途存在する。
そして、冒険者の Lv までスキルレベルも上げることが出来る。
私の冒険者レベルは10。
そして昨日確認した時、私のドレインタッチのスキルレベルは2。
私はこれを、5以上にしたかった。
「カレンの話だと、ドレインタッチはスキレベ4までは自分が吸い取る事しか出来ねぇが、5からは与えることも出来るようになるって話けど、スキレベ2でも何かの拍子に逆流できねーのかなぁ? あとスキレベを3つも上げなくちゃなんねぇのか」
試しに、与える方のドレインタッチを発動させてみる。
「“我のもつもの 分かちたまえ 吸収せよ 我のものは彼のもの”
ははっ、なーんてな。出来るわけねぇのにな」
出来ないことは初めから承知の上でドレインタッチ逆バージョンを発動させてみた。
ドレインタッチ逆バージョンが使えるようになるのは、ドレインタッチのスキレベ5から。
昨日の段階でスキレベ2の私には到底発動しえないスキルなのだが……
「……あれっ? あれれれ?」
魔力が私から流れ出ていく感じがする。吸い取る時とは全く異なる、不思議な感覚。
「えっ、できてる? ドレインタッチ逆バージョンできてる?? な、なんで!?」
慌ててドレインタッチ逆バージョンの発動を止める。
「えーっと、詠唱間違えたか? 私が貰うのは、彼から私で、これがドレインタッチで、スキレベ2の私でもできる魔法。で、私から与えるのは、私から彼で、スキレベ2の私ではできない魔法。ん? 合ってるよな? ありゃ? よくわかんなくなってきたぞ??」
一旦落ち着け。私ができないのはどっちだ?
ヘルガーデンでチュチュが私の代わりに死にかけた時、私は自分の持つ体力をチュチュに与えられない己の弱さを嘆いた。
それはよく覚えている。
となると、やっぱり私ができないのはドレインタッチ逆バージョン。詠唱は、
「“我のもつもの 分かちたまえ 吸収せよ 我のものは彼のもの”」
まだまだ細い私の血管から魔力やら何やらが流れ出す。
“何を”与えるかイメージせずに発動させたドレインタッチは、体力と魔力をまんべんなく対象に渡していく。
「えっ、えええええ!!? できてんじゃん! 私、ドレインタッチ逆バージョンできてんじゃん!!」
喜んでいいのか、訳が分からなさすぎて驚きの方が勝ってしまった。
「けどなんで? えっ、意味わかんねぇ。何が起こったんだ??」
工事現場、一人パニックになる幼女ユリ・リリス。って、誰が幼女じゃコラァ! って、自分で何やってんだバカ。ああもう、落ち着け私!!
「落ち着け。初めから整理しよう。そうだ、冒険者カードに何か書いてないか? もしかしたら違うスキルの効果か何かが反応して……」
ポケットから冒険者カードを取り出して私の情報を確認する。
【ユリ・リリス】
種族:ヒューマン
女 12歳
LV10
魔法適性:火・闇
体力:60/60
魔力:1/100
筋力:105
敏捷:160
物防:150
免疫:950
魔耐:5
幸運:1
精神:50
スキル:【『女嫌い』『バスト(C)』『器用』『温度操作(2)』『ドレインタッチ(7)』『ツタ渡り』『ファイアーサークル(1)』】
このスキルを習得しますか?
持ち物:黒焦げの木製盾、
《女嫌いの盾使い》
チーム所持金:0コレイ
「ドレインタッチ(7)?」




